しゃっくり

「ひっく! ひっく! うぅ……」


「直哉、うるさい」


「だってさ、ひっく。しゃっくり止まんねえんだもん。ひっく」


 うんざりした顔の姉の道子に対し、直哉は嘆く。しゃっくりとは横隔膜の痙攣により声帯が素早く閉じ、ひっく、ひっくという音が繰り返し鳴る現象である。今回何が原因でこうなったのかはわからないが、なかなか止まらずに困惑している。


「あーもう、宿題に集中できないでしょ! 息止めてろ! そうすりゃそのうち止まるでしょ!」


 道子は投げやりにアドバイスする。直哉はそのアドバイスを素直に受け取る。


「え、そんなんで直るの? ひっく。じゃ試してみる」

「わかったから宿題の邪魔しないでよ。あと止まった報告はしなくていいからね」


 直哉はすうっと息を大きく吸った後、そのまま腹筋に力を入れて息を止めた。


 それが直哉の最後の呼吸となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る