第七章 僕らは宇宙《そら》で母星《ほし》を護る

24.最後の決戦へ

 ソラ達は地球から50万kmほどの場所にいた。

 すなわち、月の公転軌道よりもさらに外側ということになる。

 そういうと地球からはかなり離れているようだが、宇宙レベルで考えれば大した距離じゃないともいえる。


「トモ・エ、やっぱりヤツらは地球に来るんだよね?」


 エスパーダの中から、ソラは背後の宇宙船にいるトモ・エに最終確認をした。


『はい。残念ながら』


 ソラ、舞子、ケン・トの3体のエスパーダは、ヒガンテの群れをここで迎え撃つ。

 疑似ワープを使って、なんとかヤツらよりも先にこれたのは僥倖だったといえる。

 いや、むしろヒガンテが疑似ワープ並のスピードを出していることに驚くべきか。

 光速を超えるスピードを通常の方法で出せるわけがない。だが、トモ・エが観測したところによるとヤツらも疑似ワープに近い能力を持っているらしいとのこと。


 ソラは舞子に話しかける。


「舞子、大丈夫?」

『うん、大丈夫』


 その声にはかなり緊張が含まれていた。

 本当に大丈夫なのか不安になる。


「舞子、もし動けないようだったら船に戻る?」


 心配して言うソラに、舞子が怒鳴り返してくる。


『ふざけないでっ! あんな見苦しいマネ、二度とするもんですかっ!』


(……大丈夫そう……かな?)


 実際、戦力は足りない。舞子にも戦ってもらわなければ勝ち目はないだろう。


「ケン・トさん、巻き込んじゃってごめんなさい」

『今さらかよ』

「言うタイミングがなくて」

『全く、大損もいいところだ。これはお前らと地球に対してでっかい貸しだからな』

「はい。返せるかはわかりませんけど」

『とりあえずは、生き残れ。俺も生き残る。貸し借りあるまま死ぬのは商人の名折れだ』


 ケン・トの軽口に、舞子が『ああっ』と声を上げる。


『そういえば、あんたって商人だったっけ』

『何だと思っていたんだよっ!?』

『……泥棒?』

『……やっぱり、俺、今すぐ帰ろうかな』


 この2人、仲がいいのか悪いのか。


 ともあれ、真面目な話を始める。


『ヤツらが来るまでどれくらいだ?』

『そうですね……このままのスピードなら、地球時間であと2時間後くらいでしょうか』


 ケン・トの問いにトモ・エが答える。

 舞子が少しウンザリした声で言う。


『案外、時間があるわね……』


(確かにね)


 宇宙単位で考えれば2時間なんて誤差の範囲だが、人間の感覚からすれば暇としかいいようがない。

 あと2時間緊張感を保つのは難しそうだが、ヒガンテがスピードを上げる可能性もある以上、油断するわけにもいかない。


「じゃ、作戦の最終確認でもしておこうか」


 ソラの言葉に、舞子とケン・トも賛同する。


「作戦第一段階。核攻撃」

『まずは俺の出番だな』


 ケン・トはこの1週間で核ミサイルを10発作ったらしい。

 ソラや舞子は考えもしなかった。

 地球人――というか、日本人の子どもとして、核爆弾には心理的ストップがかかっていたのかもしれない。

 しかし、この際もっとも威力が出る攻撃を選んだケン・トは正解なのだろう。

 なお、さすがの物質複製装置も、核ミサイルをすぐに作り出すことはできないらしい。必要なエネルギー量が多すぎるそうだ。


「作戦第二段階。ミサイル攻撃」

『私の出番ね』


 核で全て片付けられればいいが、相手は100体以上いる。

 全てを吹き飛ばすことはできないだろう。

 残りの敵は舞子ができる限り通常ミサイルで狙い撃つ。

 もちろん、ケン・トやソラの機体にも通常ミサイルはついているが、一番多く持っているのは舞子だ。

 物質複製装置を使って、舞子の機体は実質無限にミサイルを発射できる。


「作戦第三段階、接近戦。僕がヤツらに突っ込む」


 ミサイルで倒しきれなければ、ソードで叩く。

 ソラの機体は接近戦仕様だ。

 ミサイルは補助的に装備しているが、基本は高速移動仕様である。


『できれば、そこまでいかずになんとかしたいけどね』

「その時は2人とも、援護よろしく。で、それでも倒しきれなかったら……」


 ソラはそこで言葉を句切った。


「ヤツらの群れのど真ん中で、僕が自爆する」


 そう、それが作戦の第四段階。

 できれば――いや、絶対に避けたい最終手段だ。


 ソラのその言葉に、トモ・エが言う。


『ソラさん、やはりそれは……』

「しつこいよ、トモ・エ。これが一番可能性が高い方法だって何度も確認しただろう?」

『ですが』

「それに、僕だって死ぬつもりなんてない。自爆しないでもかたをつけるさ」

『……はい。無事の帰還をお待ちしています』


 ソラは不思議と恐怖をほとんど感じていなかった。

 むしろ、異様な高揚すら覚えている。


(もしかすると、自分は命がけの戦いを前に興奮しているのかな?)


 実際、脳からアドレナリンか何かがドバドバでているのかもしれない。

 死ぬかもしれないというのは分かっているのに、感情の高ぶりが抑えられない。

 自分がこんなふうになるなんて思ってもみなかった。


『皆さん、ヤツらがスピードを上げました。間もなく会敵します』


 次の瞬間。

 ソラのエスパーダのレーダーも、ヒガンテの群れを捕えた。


 ケン・トが吠える。


『よっしゃー、じゃあ行くぜっ!!』


 その言葉と共に、ケン・トの機体から、核ミサイルが放たれた。

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