結婚したがらない男④

 マレスカルコには友人がいました。名をアンブロージョ。彼は宮廷人で、建前では「結婚はいいぞ」と言いますが、マレスカルコに本音のアドバイスを求められると一転します。



アンブロージョ――結婚はするな。絶対後悔するぞ。



 妻帯者の彼が語る「妻」は、乳母の話とは対称的でした。



アンブロージョ――女房ってもんがどんな生き物か、ちょっと教えてあげよう。


マレスカルコ――頼む。


アンブロージョ――夕方、君が家に帰るとするだろ。疲れきって、腹をすかせて。すると妻が出てきて言うんだ。「あらまあ、今お帰り? どうせ居酒屋か売春宿にいたんでしょ、知ってるんだからね。私みたいないい奥さんにこの仕打ち?」かっとなった君が言い返そうとするや、彼女は耳をつんざく大声で「あんたは私にふさわしくないわ、あんたなんか私の夫に値しないのよ!」とまくしたてる。ギャーギャーわめかれて君は食欲をなくし、寝室へと引きあげる。すると妻は他にもたくさんの愚痴を言ったあとでベッドに入ってくるんだ、この結婚を呪いながら。「私をあんたに嫁がせた人は死んじまえ。どこかの伯爵や騎士の奥さんにだってなれたのに」とか何とか。そして自分の家系について長々と語りはじめ、君は彼女がゴンザーガ家かどこかの高貴な家柄のお姫様なのかと思ってしまう。


マレスカルコ――なのに、公爵は女ってやつと結婚しろと? あんまりだ。



 衝撃を受けたマレスカルコ、もう死んでやる、毒薬をくれ、でなけりゃ窓から飛び降りるか喉を掻き切る、と言って乳母を慌てさせます。



乳母――やめなさい、坊や!

マレスカルコ――俺は好きなように生きて、好きな相手と寝て、好きなものを食べたいんだ。女房ってやつに小言を言われる人生なんかまっぴらなんだよ!



 そうこうしているうちに結婚式がはじまりました。

 マレスカルコはヘルニアもちでセックスできないから結婚は無理だと言い出す。しかし誰もとりあってくれません。頼むから自分たちを敵に回してくれるな、と半ば脅されて前に押し出されると、そこには完璧な花嫁姿のカルロが女の子らしく目を伏せて待っている。


 司会役の家庭教師がラテン語混じりの変なスピーチをし、おなじみの質問タイム。こちらの女性を妻にめとることを誓いますか?


 マレスカルコは「僕ヘルニアなんですけど」とまた言い、ジャンニッコに「たわごとだ」と否定される。


 立会人の伯爵が懐の短刀をちらりと見せて「誓いますと言え、じゃないとこいつでグサリだ」


 マレスカルコ、やけくそで誓いますと言い、新婦にキス。すると処女のはずの新婦がディープキスしてきたので彼は驚いた。よく見ると、なんと相手は小姓のカルロです。列席者は大受け。花嫁が美少年だったのでマレスカルコは喜び、陽気に語らって劇は終幕へ。


 ここでうたわれているのは結婚しない幸せでしょうか。そもそも、なぜ唐突にフェデリーコ2世が主人公に望まぬ花嫁を提供するのでしょう。


 第1話を思い出してほしいのですが、フェデリーコ2世は最初の婚約者マリア・パレオロガを捨ててジュリア・ダラゴーナと婚約し、ジュリアも捨てて再びマリアを求め、マリアが不慮の死を遂げたので彼女の妹と結婚します。


 アレティーノは彼と個人的に仲が悪く、この喜劇にフェデリーコ2世の名前を出すことで、その結婚のすったもんだを侮辱したらしいです。当時の観客なら、ここでコケにされているのが結婚したがらない男マレスカルコではなくフェデリーコ2世だと、すぐわかったはず。


 作者の哄笑が聞こえてきそうなハッピーエンドです。マレスカルコは年少の恋人を手に入れ、ジャンニッコもこれでふさわしいパートナーを探せるようになりました。それが男か女かは別として。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る