上流階級の婚活①

 ルネサンス時代の婚活、次は男性の側から。


 アレッサンドラには息子もいます。長男のフィリッポは父親の巻き添えで追放刑を下され、フィレンツェを離れてナポリで銀行をやっていました。彼女の次なる課題は、この息子にふさわしい同郷者の花嫁を見つけることでした。


 高貴な家柄の男ならモテモテで結婚したい女子なんか余ってるでしょ……と思いがちですが、そうもいかないのがこの時代。そもそも出会いの場がありません。良家の未婚の娘は悪い虫がつかないよう家に閉じ込められています。女性が社会進出できる現代と異なり、未来の妻と外で知り合う可能性は低いのでした。


 なので若い男性は娼婦や下女、下層の女、人妻、寡婦なんかとつきあいますが、そういう女性はつかのまの恋人にはなっても結婚相手にはなりえません。身分差婚はバッシングされます。とくに女が。


 フィリッポは36歳、フィレンツェの男が「そろそろ身を固めるか……」と考えはじめるお年頃。ストロッツィ家は名門中の名門ですが、困ったことに彼は追放中の身でした。


 ここでも息子へのアレッサンドラの手紙が状況を生き生きと伝えてくれます。



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[1465年4月20日]

 お嫁さん探しだけど、フランチェスコ・タナーリが娘を結婚させるつもりなら良い縁組みになると思います。マルコと相談して、他に候補がいなければ意向を打診します。フランチェスコ・タナーリは若く、地位は高くないけど政府の職に就いています。

 お前はこう言うでしょうね。――追放中の男に娘を嫁がせたりするだろうか?

 答はイエスで、理由はいくつかあります。まず、資産と徳の双方をそなえる良家の若い男が不足していること。次に、その娘の嫁資が少ないこと。恐らく1,000フィオリーノで、これは職人と同額です。マンフレディ家はピッティ家に嫁ぐ15歳の娘に2,000フィオリーノ与えるんですよ。タナーリ家の娘は17歳だし、あそこは大家族です。娘たちを早く片づけたいはずです。

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 カテリーナの嫁資も1,000フィオリーノじゃなかった? この頃には高騰して「職人と同額」になってたんでしょうか。いいけど。


 マルコとはカテリーナの夫のマルコ・パレンティです。彼は結婚後、女の身でなにかと行動しにくいアレッサンドラの頼れる相棒となり、義理の弟の婚活に奔走するのでした。

 

 カテリーナの結婚からすでに18年たち、マルコは43歳、アレッサンドラはおよそ59歳。


 ところで、手紙に父親の名はあるのに娘の名はまったく言及されないところが、いかに当時の結婚が家と家のものであって個人のそれではなかったかが反映されているように思えます。



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[7月26日]

 マルコと話しました。フランチェスコ・タナーリの娘よりふさわしい候補は今のところ見あたりません。ひそかに調べましたが、追放者との婚姻を希望する人には、嫁資が少ないなど何かしら理由があるのです。タナーリ家も嫁資は少ないけど、他の要素がよければ大きな問題にはなりません。

 フランチェスコはマルコと親しく、彼を信頼しています。私たちが数カ月前から関心を寄せているのを知っていて、こちらが心を決めれば喜んで娘をやるだろう、と直接マルコに言ったそうです。お前(フィリッポ)は立派な男だし、あちらは良縁を望んでいるけど高額は出せないので、フィレンツェにいる金のない男より遠方のふさわしい人物に嫁がせたい、と。

 彼はマルコを家に招待し、娘を呼んで対面させました。マルコが見たところ、魅力的で申し分ない娘とのことです。

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 マルコは父親と親交を深め、娘の姿をひとめ見る段階までこぎつけました。やったね! どうやらタナーリ家は話に乗り気のよう。


 候補はもうひとりいました。アディマーリ家の適齢期の娘です。この娘については容姿が分かりません。ぜひ顔を見たいと思っていた時、耳よりな情報が。大聖堂で行われる日曜のミサに本人が現れるというのです。


 次の日曜日の朝。きれいなシャツを着てサンタマリア・デル・フィオーレ大聖堂へ向かう人々の中にアレッサンドラの姿がありました。


 彼女はアディマーリ家の娘を見ることができるのか。ミッションの結果は次回。

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