ごく当たり前の恋心が、少年を英雄にする。

 あなたは「己を省みず他者を救おうとする聖人君子がごとき英雄」に共感・感情移入できるだろうか。私はできない。立派だとは思うが、常人である私にはその行動原理が理解できず、あまりに遠く感じるから。

 いつもなら。

 だが、この物語の主人公の少年、天野英雄《アマノヒデオ》はその条件を満たしているにも関わらず、私は共感した。理解できた。それは彼の動機が──

 恋、だからだ。

 ずっと想っている初恋の少女に「強くなって人を守る」と約束したから。その約束を破らぬため、自分自身の彼女への想いを裏切らないため、ヒデオは無茶を承知で意地を張り続ける。

 ごく普通の判断基準も持ち、弱く利己的な選択肢だって頭に浮かぶが、ぐっと踏みとどまってそちらを選ばない。

 その気持ち、わかる……!

 行いは崇高でも、根底にあるのは「好きな人に嫌われたくない、好かれたい」そんな、人を好きになれば誰もが思う、ともすればかっこ悪いかも知れない感情。

 だがそれがいい。
 だから、わかる。

 ただ真似はできない。いくら恋のためでも僕は彼ほど英雄的な決断を下せる自信はない。理解はできても真似できない存在に、僕は憧れる。だからこそ手に汗握って応援する。どうか、その想いを全うしてくれと。