第5話 初めて全力出してみる俺。


 今にも購入しそうな雰囲気を作ってから、俺は確信をついた。ダラダラ話すつもりはない。俺のやりたいことって、すごいシンプルなんだから。


 「家に一人の時間ってある?いつなら一人になれるの?」


 俺はブラインドタッチだけは、めちゃくちゃ早い。畳み掛けるように聞いたから、タイムラグがあって、女の返事に俺は引いた。


「あの、岬さん専用のルームつくること考えているんですけど……。それだったら、どうですか?」


 ヤバい、そんなことされたら、うっかりおばさんの名前がそのルームについたりしたら、困る。


 一瞬、ゾッとした俺はすぐに返事した。


「ちょ、それって、俺がログインしてるの、外から丸分かりになるんじゃないの?だって、ルームが開いてる=使用中なわけだし。岬さん専用とか書かれたら、俺困るんだけど」


 俺は、女が積極的すぎて引いた。専用ルームって、どんだけ課金させるつもりだよ。俺は、ビデオチャットは敷居が高すぎて、残念ながら無理、と思ってた。いや、なんつーか、俺、うさぎちゃんを見て、普通でいられる自信ない。


 見たいんだけど、見ないほうがいいと思って。


が、次の瞬間、もっとドン引きなことがすぐに、わかった……。



「今、子育て真っ只中だから、完全に一人になれる時間って、ないです♡」


 双子の赤ちゃんの世話してるから、と。


 俺はそこで一気に引いた。それはありえない。さすがの俺も、赤ちゃんいる部屋の女を脱がせてチャットでセックスとか、それは鬼畜すぎる。


「いや……やっぱいい、忘れてよ」


 女は、俺がしようとしていたことがピンと来てなかったのか、「よくわからないですけど、本当にいいんですか?」と聞いて来た。


 俺はやる気満々だったんだけど、さすがに、赤ちゃんはない。


女はまさか、チャットで本当にやるとは思ってないんだろう。


 俺、そんなに実力あるのか?自分で、やってみなきゃわからんし、と思ってた。無茶じゃね?






(まず生身の女でいけよ)と、どこかで声が聞こえた。


いや、それは……。


 なんなの、俺は。どこまでも無責任かもしれん。


やりたいけど、できない。なんつーか、なんでできないんだろう。


 後腐れなくやりたいという気持ちと、いや相手に人格を認めるとできない、という葛藤と。


わからん、わからんな……


 俺は好きな子とはできないんだろうか。そうかもしれない。


いろいろ、とんでもないことをやってみたい。俺は男子校にいるから、普段、校内で女子を見かけることもない。


「ごめん、また連絡する」


俺はそう書いて、ネットを落ちた後、一人で考えた。



 一体、俺、何がしたいの?


 人妻なだけでなく、母かよ……赤ちゃん連れはさすがに無理。


 女は周りにいないけどな……。なんでか知らんが、俺の周りはイケメンばっかなんだよな。


 俺は通学の電車の中で、俺に手紙を差し出した他校の女たちの顔を思い出そうとした。


 全く思い出せない。視界にも入ってない。ブレザーの下に、子犬みたいな白いVネックのセーター着てたしか、印象がない。隣に立ってた女はケバかった。


 いつも友達とつるんで遠くから俺を見てる女って、絶対、本気じゃない。ネタとして俺を追いかけてる気がする…。


 知らない女からもらったチョコなんて怖くて食えない。俺、やっぱあんまそういうの、好きじゃないっていうか、興味なかったんだ。

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