流星群とキミ


 『今日、流星群見えるらしいよー! 一緒に見に行かない?』


『ごめん』


 今夜も仕事。

 流星群の噂はネットで見てたけど、当然仕事が優先だし。

 イベント好きな彼女を持つと大変だ。事あるごとに誘いの連絡が来る。


 彼女は仕事無いのかな? 今日は早番? ……まぁいいや。

 急かされてるこの書類を、早く完成させなくちゃ。




 『待ってる』。そんな返信を目にしたのは、全ての仕事を片付け終えた後、あと数分で日付が変わりそうな、真夜中だった。

 まさか、この時間までは待っていないだろう。

 そう脳裏に掠めたが、なんとなく胸騒ぎがして、荷物まとめもそこそこに会社を飛び出した。


 場所は見当が付いている。

 学生の頃に、夜中に家を抜け出して一緒に星を眺めたあの川原。


 電車に揺られてバスに乗って、必死で走った。

 久々に走ったせいか、少し頭がくらくらした。


「ごめん、お待たせ」


「来て、くれたんだ」


 驚いた表情の彼女は、クシャっと笑った。

 泣くことを我慢しているような、そんな表情に見えた。


「……ごめん」


「なぁに? 今日は何かあったの?」


 あぁ、本当に。

 こんな表情をするような人じゃなかったのに。

 私のせいだ。


「本当に、ごめん」


「好き?」


「…………」


 不安そうな表情を一層濃くさせ、彼女は私の顔を覗き込む。

 耐えられなくて、つい、目を逸らした。


「……嫌い?」


「んなわけ」


「ふふっ」


 昔からだよね。


 彼女は呟く。


「昔から、そうやってしか言えないよね」


「ごめん」


「ううん」


 笑ってはいるけど、本当は笑いたくなんかないんだろう。

 それくらいは、私にも分かった。


「ただやっぱり、不安にはなっちゃう、かな。本当に私のことが好きなのか、って」


「……うん」


 鼻を啜る音がする。


「ねぇ」


「うん?」


 泣き笑いのような、彼女の表情。

 こうさせたのは、私。

 私の、せい。


「あ、めっちゃ星! 流星群きた!」


「大好き」


「へっ?」


 空を指差した彼女を力いっぱい抱き締めて、その言葉を呟いた。

 ずっと言えなかった、その言葉。


「ちょ、な、どうしたの」


「大好き」


 だから、そんな顔しないで――。


「……ありがと」


 彼女の体が弛緩する。

 それで、初めて彼女の体が固まっていたことに気が付いた。


 そっと体を離すと、彼女は泣いていた。


「ご、ごめん。泣かないで」


 違うの、と彼女は涙を拭う。


「嬉しくて」


「……良かった」


「うんっ」


 彼女の目の下、涙を拭った辺りが、キラキラと光を反射する。


「星、きれい」


「本当にね」


 空を見上げる彼女の横顔は、星々に仄かに照らされている。

 川と虫が囁く中、私も空を眺める。


「私、待ってるって送っときながら、場所送るの忘れちゃって。気付いたのも大分後だったし、迷惑かなって送らなかったんだけど……よく、ここって分かったね」


「迷惑じゃないし、ここは、大切な場所だから」


「覚えて、たんだ」


「当たり前でしょ。忘れる訳ない。……翌朝、家族にバレてこっぴどく叱られたことも」


「そうそう、2人で両家族に謝りに行ってさ……」


 あの時も、彼女は泣いていた。

 泣きながら、私のことを好きだと打ち明けてくれた。


 星が落ち着いたら、もう一度、彼女を抱きしめよう。

 次こそは、あの笑顔を見せてくれるかな。

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