第6話.愚鈍な兄、聡慧な妹

あの日、2人で巨大な蟲の化け物を倒した事件から数日が経ち、俺たちの関係はあの時とは少しだけ変わった。

秋也は、この孤児院に来た初日よりも笑顔が増え、ほかの子供たちにも少しずつ心を開こうとしていいるようだ。

俺ともお互い皮肉を言い合えるような仲になった。

秋也はもう大丈夫だろう。

今、俺が心配しているのは、あいつの妹の奏恵さんのことだ。

彼女は、ここに来た当初から明るく振舞ってはいるが、未だにその表情の中には悲しみが垣間見える。

俺は今日まで、彼女が心から笑っている所を見ていない。

このことは、秋也も気づいているようで、どうすれば奏恵さんが心から笑ってくれるのか今の俺にもわからず、

いいアイデアを出すことが出来なかった。

一旦もう一度、それぞれで考えることにしたが、やはり思いつかない。

彼女が悲しんでる理由。それはやはり親のことだろう。

野郎なら、喧嘩や暴れさえすれば少しは気が晴れる。

でも、彼女は女の子だ。俺や秋也とは違う。

一人で考えていてもダメみたいだ。

俺は頼れる兄貴分であり、俺たちと同じ境遇でもある仁さんに相談することにした。


「仁さん、すこしいいですか?」

「おう、何かあったのか?」

「はい、実は奏恵さんの事についてなんですけど」

「お前もその事か」

「お前もかってどういうことですか?」

「ああ、さっき秋也も妹の事で相談が有るって来てたからな」

「そうだったんですか」

あいつも来てたのか。

それもそうか、俺に相談なんてしに来るくらいだ。仁さんに相談に来ていても不思議じゃない。

「何かいいアイデアが有ったんですか?」

「いや、俺にもどうすればいいかわからない。でも」

「でもなんですか!教えてください!」

「お前には一番身近に奏恵と同じ境遇の子がいるだろう。そいつに聞いてみたらいいんじゃないか?」

確かに仁さんの言うとおりだ。なんで俺は気づかなかったんだ。

俺はすぐ自分の部屋に戻った。


部屋に戻ると、

「お兄!何処に行ってたの!探してたんだからっ!」

「ごめんごめん。ごめんついでにちょっと相談が有るんだけどいいか?」

「もうっ、なあに?」

「ああ、実は奏恵さんの事で天音に相談したいことがあるんだ」

「奏恵?あの子がどうかしたの?」

「実は天音には言ってなかったけど、あの兄弟も親を魔族に殺されてここに来たんだ。」

「嘘でしょ...私たち以外にそんなことあるなんて...」

「それにこの孤児院にはもう俺たちと同じ理由の人がもう一人居るんだ。」

「その人っていったい誰なのっ!?」

「仁さんだ」

「確かに仁さんはいつも私たちを気遣ってくれていた。そういう事だったのね。」

「この話はまたあとで詳しくするよ。今はさっきも言ったけど、天音に相談が有るんだ。」

天音は少し考えて、

「わかった、そのかわり後でちゃんと話してよね」

「ありがとう」

「それで、何の相談なの?」

「さっきも言ったけど、あの兄弟も俺たちと同じ理由でここに来たんだ。」

「うん」

「彼女、奏恵さんなんだが、未だ立ち直れていないみたいなんだ。彼女は笑っているけど、俺には泣いているように見えるんだ。

 俺は彼女の本当の笑顔が見たいんだ。彼女が元気になるような言いアイデアはないかな?」

「それでなんで私に相談するのよ。笑顔になってもらいたいならお兄が自分で考えればいいでしょっ」

「確かにそうなんだが、どうすれば女の子が元気になるのか、いくら考えても思いつかなかったんだ。

 頼むよ天音、お前だけが頼りなんだ」

「私だけが頼り、ね...もう、お兄は本当にしょうがないんだから!

 良いわ、一緒に考えてあげる」

「ありがとな。で、なんか思いつかないか?」

「そうね、あの子はどんな時に悲しそうに見えるの?」

「子供たちと遊んでいて、その子たちが自分の親のことを話している時とか、彼女が一人になった時とかかな」

「なんでお兄はあの子が一人の時のことなんて知ってるのよっ」

「な、なんでもいいだろ。たまたまだよ。たまたま」

「ふーん、まあいいけど。」

「で、どうなんだ?」

「きっとあの子寂しいのよ。」

「寂しい?なんで寂しんだ?あの子には秋也がいるんだぜ?」

「ふんっ!あんなのいてもいなくても同じよ。

 だって私、あの子とあの兄妹が話しているの見たことないもの」

「おいおい、何もそこまで言わなくても」

「うるさいっ」

まあ確かに天音の言うとおり、秋也と奏恵さんが話しているのは俺もあまり見たことがない。

「でも寂しいって、何ができるんだ?俺には何もできないのか?」

「できないことはないけど、なんでお兄はそんなにあの子の事が気になるの?」

「なんでって言われても、気になるから気になるとしか...」

天音はハァとため息をつき、

「もう、お兄って本当にダメなんだから。やっぱりお兄は私がいないといけないみたいね。」

なんだよそれ、どういうことだ?

「はっきり言うけど、お兄はあの子奏恵ちゃんのことが好きだから笑顔にしてあげたいんじゃないの?」

えっ?

「そ、そうなのか?」

「お兄を傍でずっと見てきた私が言うのよ!きっとそうよ!...ちょっと残念だけど」

「そうなのか...俺は奏恵さんの事が好きだったのか...」

「そうよ。で、お兄はあの子の事が好きだと気付いて、あの子に何をしてあげたいの?」

「俺は、俺は奏恵さんの傍にいてあげたい!寂しいなて思わないくらいずっと一緒にいてあげたい!」

「答えが出たじゃない。それがお兄が今するべきことよ」

これが俺のするべき事。そうだ、そうなんだ。奏恵さんを一人になんて寂しい思い何てさせない!

「天音、ありがとう。俺ちょっといってくる」

「ちょ、ちょっとお兄!待ってy...」

俺は天音さんを探しに部屋を飛び出した。

「もう、本当にお兄はダメなんだから...バカッ」

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