銃と剣 49

「君、やっぱり食えない奴だよね」


 約束の水曜日、久々に颯太がPIOのエリアに顔を出してみたら、Fが頬を膨らませて待っていた。


「え? 行成、なんなんっすか?」

「先に春風と話つけたでしょ?」


 それも勝手にっ! と、Fは付け加える。

 あの後のことかと、颯太は思い、コクリと頷いた。どうやら情報は全て筒抜けらしい。

 

「こっちで動くって言ったのに。随分とご機嫌に話されたわよ。クソ忌々しいったらありゃしない! あー! 腹立つ!」


 一体なっちゃんとFとの間に何があったのか、聞かないほうがいいだろう。少なくとも、Fはなっちゃんのことが個人的には苦手そうなのは間違いない。

 苦手と言うよりも、これは敵視に近いなと颯太は思う。

 名前を決して呼ばない所がその証拠と言えるだろう。


「すんません。なんか、そんな雰囲気になっちゃって」

「……はぁ。そんな素直に謝られたら、怒れないじゃん。別にいいの。いいのっ。会いに行ってあげてって言ったのは私の方だし、まさかアイツが平日のあんな時間にいるだなんて思わなかったし。あいつが君の何倍も食えない奴だってわかってるから。あと、アレ、用意できたけどアレでいいの?」


 そう言ってFが指さした方に颯太が顔を向けば、颯太がPIOに頼んだ『アレ』がどっさりと用意されていた。

 その景色に、思わず颯太の目がきらめく。

 まさに、完璧だ。


「あ、あざっす! あと、本当にこんなこと頼んで、何かすみません……」


 無茶を頼んだ自覚があるだけに、颯太は今さらしても仕方がない事は重々承知でFに向かって申し訳ない顔をする。

 Fも同じ様に、何を今更と小さく笑った。

 全ては同じ目的の為。

 黒川潤一を、いや。この世界に降り立った辻斬りを止めるためだ。


「別にいいよ。春風の同意があれば、これぐらいの数なら用意出来るしね。で、どう? 今日、辻斬り君は来そうなの?」

「ええ。部活が時間通りに終わったの見ましたし、今日は来ると思います」

「これだけ用意したんだから、来てもらわなきゃ困るよ」


 Fの視線先にはずらりと並んだ『アレ』、いや。瓶爆弾。


「あの鞄、最大限に入る数。これ以上は持てない上限ギリギリ足すことの1の数」

「これで、アイツは先輩達を呼び出さなきゃいけない状態に陥る」


 Fと颯太は頷きあう。


「とりあえず、各クラン員、辻斬りと鉢合わせをしたらここに誘導する旨は伝えてあるから。今日は全員幹部以上のみしかログインさせてない。ある程度交戦もできて、自力でなんとかする子達だから、大丈夫だと思うけど、万が一何かあった時の場合をとって、私はここに。Nは矢場公園近くのビルの屋上に待機してるから。君は君で絶対にバレないように隠れてて」

「はい。俺が見つかったら……」

「最後の作戦どころじゃないし、ただ瓶爆弾取られて終わるって間抜けな結果になるだけね。頼むよ、ルーキー君。君が言い出しっぺだぜ?」

「勿論。わかってますよ」


 これで手筈は整った。

 颯太はそこでFと別れ、近くのビルの屋上に飛ぶ。

 随分とこの世界になれたものだ。この世界にログインをした時は、戸惑いしかなかったというのに。

 今はこんなにも、楽しいだなんて。

 駆け上がったビルの上から、この世界を見渡して、思わず笑みが零れる。アイツとクランを組んだら、どんな風にこの景色が、世界が変わるのだろうか?

 それが、楽しみで楽しみで仕方がない。

 潤一、いつでも来いよ。絶対に、俺が止めて見せるから。

 

「早く一緒に遊ぼうぜ?」


 なあ、親友っ!

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