銃と剣 44

 颯太は、口を開き、Fに全てを話す。それこそ、包み隠さず、全てを。辻斬りの正体も。

 

「……何それ、そいつら酷い! 辻斬りも被害者みたいなもんじゃん!!」


 Fは怒りも隠さずに声を荒げる。

 どうやら、Fも颯太が思うと同様に先輩達に対しての怒りが湧き上がった様だ。

 

「意味わかんない! このゲームの事、何だと思ってんの!? あの痛みが、何だと思ってんの!?」


 Fは奥歯を噛み締める。最早、それはゲームなんかじゃない。ただの強奪だ。自分じゃ払えない対価を、他人に押し付けるなど、許し難い行為である。

 この世界の『王』の一人として、そんな傲慢さはどうしても許せないのだろう。

 しかしながら、その言葉に、颯太は胸を撫ぜ下ろした。

 颯太がFを信用に値すると思ったのは、こんな風に彼女の他人の痛みが分かる所なのだから。颯太が騙されてこのゲームに来た時、彼女は颯太以上に怒り、颯太に力を貸してくれた。だからきっと、潤一の事も。そう、思って彼女に全てを話したのだ。


「許せない……。うちのクランをそんなくだらない事に巻き込んだことも、辻斬りの事も。今から乗り込みに行く! 何処のクラン!?」


 しかし、些か短気というか、なんと言うか、彼女は慈悲の反面、酷く短絡的な面も多い。

 強い分、何でも押し切ろうとしてしまうのはある程度仕方がないかもしれないが。


「Fさん、落ち着いてください。多分、アイツら自分たちのエリアなんて持ってないから、特定なんて無謀ですよ。いつログインするかもわかんないですし」

「あ、そっか……。そうだよね。毎回ログイン場所変えてるし、痛みを伴う事を嫌うなら、そんなに頻繁にログインなんてしないか……。闇雲に探すなんて、ただの馬鹿だしね」


 Fの思考は颯太に良く似ていた。

 与えられた情報で、相手の行動の裏を推測し、こちらの行動を考える。それは、後方支援組として、遠距離から全体を把握するのにたもても必要なスキルである。

 後方支援と言えば

 

「でも、近日中に必ずアイツはここに乗り込んできます」

「そうだね。さっきの話を聞く限りでは一週間以内。君、その子の友達なら大体どれぐらいに来そうとか、わかる?」

「はい。アイツ、部活入ってて、部活の遅い日は火曜日と木曜日。この日はおそらくこないです」

「成る程。他の曜日は?例えば今日とか」

「今日もこないと思いますよ。月曜日は人の入りが少ないって知ってると思います」


 颯太が只管集めたこの世界の情報を披露すれば、Fもまた頷く。


「そうだね。と、なると、水曜日か金曜日……、かなぁ」

「あれ? Fさん。土日は?」

「土日はまず来ないと思うよ。人が少ないのも困るけど、多いのも困るでしょ? 日本刀一本じゃうちのクラン員全員の攻撃は止めきれない。土日にわざわざ、うちじゃなくてクラン員の多くない春風を狙ってるなら、そう考える方が妥当でしょ」


 Fの言葉に颯太は頷く。

 十分彼女の言葉は理に適っていた。


「で、君は如何したいの?」


 今度はFからの問いかけだ。

 

「どうしたいと言うのは?」

「君はどうする為に、何を思ってどう行動する気なのか、だよ」


 Fは杖を自分の頬に当て、颯太を見る。

 

「私はみすみす、辻斬り君には悪いけど、クラン員を倒させるつもりは無いから。私はここの副団長で、Nや幹部達と共に彼らを守る義務がある。厳戒態勢を引き、見つけ次第、速攻で倒す」


 PIOには数多くの初心者がいる。

 彼らがこのゲームに慣れ、いつか飛び立つまではNをはじめとした上位層が彼らの親鳥として体を張って守る義務があると彼らは考えているのだ。

 しかし、それは、辻斬りとの対決を果たしてしまうと言うこと。

 それは、君が望む事なのかと、Fは颯太を見る。

 颯太は、ぎゅっと、自身の服を握りしめた。

 昨日の、死ぬ程の痛みを思い出す。

 殺した自分を思い出す。

 もう、知らないままの自分ではないことを。


「俺は、アイツを助けたいです。助けますっ!」


 昨日、自分に引き金を引いた時の決意を、颯太はFに向かって叫ぶ。


「じゃあ、これから私達は敵同士ということね?」


 そういって、Fは少しだけ悲しそうに杖を颯太に向けた。もう、取る手などないのだと。

 Fが杖を振るう瞬間、颯太はFの手首を抑えて、顔を近づける。

 余りにもの一瞬の出来事で、Fは声を出すことも、振りほどく事も出ずにただ、なすがままだ。


 え……。私、このままもしかして……っ!!

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