銃と剣 21

「持ち物も奪えるんですか?」

「うん。でも、その機能なんかあやふやしてて、皆使ってない。奪っても、相手が死ぬと消えたりするバグがあるみたいの。運が良かったら残るから、取り敢えずやってみるぐらいな感じ?」

「体験型ゲームでバグって単語、怖いっすね……」


 致命的なバグではなさそうだが、出来れば遠慮したいバグである。

 なんたって、自分達のデータに、どう影響があるのかもわからないだろうに。


「そうそう。リアルでもだけど、このゲームの鉄則は危ない橋は極力渡らない。渡る時は全てを覚悟しろ。って格言があるの」

「なんっすかそれ」


 既にゲームについての格言ではなくなっているではないか。

 颯太は呆れた顔でFを見ると、Fも口を尖らせる。


「私が作ったわけじゃないから、文句言わないでよー」

「そうなんですか。俺、てっきり、今Fさんが思いつきで言ったのかと……」

「だから、君は失礼なんだってば! もう、えっと、何処まで話してたっけ?」

「エリアの事ですね。質問っすけど、エリアってどうやったら占拠になるんっすか?」


 旗でも立てればいいのか?

 ここは私達の陣地ですって。

 

「んー。簡単に説明するね。エリアは気紛れに運用が解放してるの。エリアには、『核』ってものがあって、そのエリア内の何処かに隠れてるんだけど、そのエリアの核に自分の武器で傷を付けるの」

「傷、ですか?」


 特殊な方法に思わず颯太は口を挟む。

 

「そう。傷を付けるだけ。付ける人間に資格はいらない。誰でもいいんだけど、クランに属している人間であれば、自動的にそのエリアはクラン所属になる。でも、今の君みたいに何処にも属してない野良プレイヤーが傷を付けた場合には、その本人のみのエリアとなる」

「エリア内は部外者に立ち入り禁止とかできないんですか?」

「そんな便利な機能がついてたら、昨日君はあそこの場所で山犬に襲われてないよ。リアルと一緒で自分の土地になるだけで不思議な力で立ち入り禁止とかには出来ないの。ただ、その核って奴から生成品は出てくるから、そこは核に名前のあるる人か属するクランの人しか取り出せないよ」

「生成品に対しての制限はあるんですね」


 となると、エリアの占拠ではエリア自体はおまけ。

 実際に必要なのは核と言う事となる。


「生成品を持っていると他の生成品を資源としているクランや野良と物々交換も出来るから何かと強みになるわけ。ま、その代わり狙ってる奴も多いから、奪われる可能性も高いけど」

「それは、エリアがってこと? さっきの奴もだけど」

「そう。運良く他のクランとかを出し抜いて解放エリアを初めに占拠出来ても、守れなきゃ意味がないの。奪うのは結構簡単で、わざと最初を譲って後で奪うって奴も多いよ」

「え、酷いな」


 口では酷いと言うが、実に頭のいい方法と言ってもいい。


「ゲームだからね。効率を考えれば、そっちの方がいいし。それも一種のやり方だから責められないかな。それに、ここの運営はエリア争奪戦とかイベントを月に2回ぐらいのペースでやってるから、向こう的にも推奨なのかもね。エリア占拠陣営の交換とか」

「争奪戦? 自分達のエリアを? 今回の奇襲も?」

「あれはただの奇襲。実は、エリアを奪う方法なんてすごく簡単で、エリアを奪いたいのなら、占拠している団長か副団長を倒して核に刻まれてるそのクランの証を上書きすればいいだけの簡単なルールなの」


 何が簡単かと、副団長の強さを隣で見ていた颯太が白い視線を送るが、Fはお構いなしだ。


「でも、うちみたいに副団がとてもかわいい兎さんだけど、団長が化け物だったり、核がある場所まで中々踏み込めなかったりする場合、そのイベント中のみは別の条件でもエリアを奪えるの」

「条件? 副団と団長を倒さなくてもいいって事ですか?」

「うん。その条件は、イベント開始時間にログインしているそのクランの八割以上の人間をイベント開催時間内に倒すって、ルール。違うチームと組んで倒した場合、そのエリアは一時解禁時の状態に戻り、核取り合戦に変わるんだ。確かに、クラン全員が強いなんて稀だし、如何に強くても人数で攻められれば八割なんて直ぐだしね。五人のクランなら、1人に化け物がいても、他四人をクラン内の誰かが倒せば自ずとそのエリアが手に入る。そっちの方が遥かに楽だもの」


 確かに、核の場所が何処にあるかわからない、またはクランにFや山犬の様なレベル上級者が入る場合、先程の奇襲よりもイベント時に狙ったほうが格段と確率も上がるだろう。


「ま、今の君はのんびりこの世界に慣れるといいよ。いきなり、人を倒せって結構難しいし。いくらゲームでも覚悟じゃなきゃ出来ないしね」


 人を倒す。その言葉に、颯太は自分の腰に掛かっている、ガンホルダーを見つめた。

 確かに、あの時、自分は殺されそうになっていたというのに、引き金が引けなかった。

 それは怖かったからた。

 殺されるという事実よりも、殺してしまう事実の方が。そんなことの方が、遥かに戸惑い、恐怖を覚えた。

 Fが言う覚悟とは、決して慣れではないと颯太は思う。でなければ、彼女はきっと、颯太にまずは人を倒す事に慣れた方がいいと言うだろう。彼女はそうとは言わずに、颯太に、まずはこの世界に慣れろと言った。

 いつか、自分にその覚悟が来る日がくるのだろうか……。


「あ、でも、君、野良かぁ……」

「え?」

「どのクランにも属してないってこと。野良だと強くないと結構ここら辺厳しいかも。大須側は違うクラン内のエリアだから近づいちゃダメだよ。あの横断歩道、超えたら速攻で狩られると思う。うちのクランのエリアに居ても別にいいけど、私がいない時に来て、事情を知らない子が見たら奇襲者だと思って狩られる可能性も高いしなぁ……。かといって、栄駅の近くはエリア解放されてない無法地帯だし……。君、ここら辺向いてないかも」

「えっ!? 初心者に優しくなさすぎじゃないっすか!?」

「んー。基本は、野良なんて古株しかいないしね。皆、最初は自分をこのゲームに招待した人のクランに入っていろいろ覚えるのが普通だし。君の場合は山犬のクランだろうけど……」


 そう言われて、あの大鎌を振り回す赤色の着物のお面をつけた女に追いかけ回された悪夢を思い出す。教えてもらうどころか、最早二度と会いたいとも思わないレベルでご遠慮願いたい。


「無理だよね」

「無理っすね」

「だよねー。あ、じゃあ、うちのクラン入る?」


 そう言って、Fが頭を傾ける。


「……え?」

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