銃と剣 19

「はい」

「来てよかったの? ちゃんと、考えた?」


 Fの言葉に颯太は首を縦に振るう。

 そこには戸惑いも、迷いも、言ってしまえば未練もなかった。


「Fさんはこないと思ってましたか?」

「まさか。来ると思ってなかったら、こんな所で一人待たないよ」


 颯太の問いかけにFは笑って答えてくれる。

 

「あの、Fさん。一つ俺から質問、いいですか?」

「いいよ。ログインをした意思は見事な物。質問一つぐらい、よろこんで」

「ありがとうございます。Fさんが言ってリスクって、ログアウト時の痛みですか?」

「ご名答。斬られただけでも痛かったでしょ? 一定以上の痛みは、このゲームの中では感じれずにログアウト時に一瞬だけど全ダメージが襲ってくる。どう? 怖くなかった? もう二度と味わいたくないと思わなかったの?」


 それは、どこか少しだけ、颯太を責めるような口調だった。


「なりました」


 颯太は正直に、Fの目を見て話す。


「もし、手が切り落とされていたら、それよりも先に身体が裂かれていたらと考えて、ゾッとしました」


 とてもじゃないが、慣れる痛みなわけではない。それが、死ぬということ。死に至る傷みなど、普通の人間には一生に一度しか訪れない程のものなのだから。


「あははっ! なのに、来たんだね。充分君もマゾ野郎だな。改めまして、ようこそ、『SSS』の世界へ」


 Fは笑って手を叩く。


「では、PIOを名乗る者として、君に開拓者の心得を説いてあげよう。君は今日からこの有り得ない異世界の開拓者だ。と、カッコよく決めたいのだけども、空気読めない奴が来ちゃってさ。ちょっとこっちも今、忙しくて」


 そう、Fが溜息を付いて杖を振り上げる。

 彼女と颯太を守るように、透明な壁が出来上がったかと思えば、背中で凄まじい爆発音が鳴った。


「!?」


 颯太が驚いた顔をすれば、Fは肩を竦めてうんざりといった顔をする。


「何が今!?」

「あー。そんな事で騒がない、騒がない。良くある奇襲だよ。どっかの馬鹿なクランがうちのシマを狙って、奇襲仕掛けてきたの。まったくもって、いい迷惑よね。たかが雑魚の集団が、この最高位クラン・PIOが占領するこの一等地を欲しがるなんて、本当……」


 Fは後ろを振り向き、杖を向ける。

 そこには、煙幕に隠れて、F目掛けて剣を振り下げようとしていた男がいたのだ。


「Fさんっ!」

「図々しいにも程があるっ。馬鹿じゃないの?」


 山犬の時同様に、男の周りに透明のガラスが埋まり、四角型の箱が男を閉じ込める。しかしながら、Fは昨日の様に、瓶爆弾を投げ入れることはなく、密封しただけだ。


「喧嘩売るなら、相手の事をよく考えるべき。何で、私達がこの一等地を占拠してるのか、をね?」


 そう言って、また杖を振りかざす。

 すると、見る見るうちに、箱は小さくなり……。


「山犬達だと破られる可能性があって出来ないけど、アンタ達ぐらいの雑魚ならこれで余裕でしょ?」


 にこりと彼女が笑えば、箱は掌程の大きさ一気に縮まる。もちろん、その中にいたあの男は強制ログアウトだ。

 箱が消えると、赤い液体に混じって何か小さな宝石のようなものが出てくる。Fはそれを拾い上げて自身のポケットへと閉まった。


「今のって、プレイヤー……?」

「そうそう。察しがいいね。私達以外のプレイヤーで、尚且つ私の敵でもある」

「敵なんて、いるんですか?」


 強さは歴然としているではないか。誰がそんな命知らずを試そうと思うのか。

 

「いるに決まってるよー。君以外と可愛い事言うね。この世界の八割は馬鹿でて来てるんだよ」

「……八割は流石に言い過ぎじゃないっすか?」


 Fの言い分を聞いてしまえば、世界の半分以上は馬鹿だ。


「言い過ぎ? 寧ろ、少な目に見積もってあげたぐらいだけど」

「そんなにも馬鹿が多いんですか? この世界は」

「リアルも同じでしょ? 思考停止した、考えない馬鹿ばっかり」

「思考停止の馬鹿ねぇ……」


 颯太は赤い液体の溜まりを見ながら小さく呟く。

 これも一種の思考停止では? と、彼はどうやら思ったようだ。

 

「あっ! 今、君、すっごく失礼な事考えてるでしょっ! 私の事、馬鹿って!」

「えっ!?」


 どうやらシールドを張る以外にもFは颯太の心を読める魔法が使えるらしい。

 図星を付かれた颯太は、思わず肩が跳ねあがる。

 

「お、思ってないですよ!?」

「嘘くさいっ! 絶対に思ってるでしょ? 失礼だなっ。そんなに敵を倒した事が不思議?」


 どうやらFの推理は颯太の視線で見破った様だ。

 颯太は決して馬鹿にしてないと前置きをして、頭を掻きながらFに問いかけた。

 

「直ぐ倒してよかったんですか? 捕虜とか、このゲームでは意味がないんですか?」


 奇襲だと言うのならば、捕虜を捕まえ情報を得たほうが何かと効果的で優位に立てる場合が多い。それが定石と言うものなのに、彼女は余りにもあっさりと相手を倒してしまった。そこが颯太の中ではひっかかる。

 ゲームでよく聞くクランとは、団体・組織。複数の人間で成り立つチームを指すはずだ。外と同じルールであれば。

 彼女は最初、彼に対して『どっかの馬鹿なクランが』と、発言した。

 即ち、敵は一人でない事を指している。


「今回は、意味はないね。倒したほうが早いわ。あんな、雑魚クラン、敵の数も知れてるし、人数減らした方が出来ることも限られてくるし、あと二三人残ってようが何しようが、こっちは全く以って痛くはない」

「あの、そのクランって、結局、何なんっすか? あと、このゲームって……」

「ああ、そうだよね。クランの話も、このゲームの話もしてあげるという約束だったもんね。ここじゃなんだから、栄まで歩きましょう。話は歩きながらでもできるし、境界線の近くは君が危ないから」

「……奇襲はいいの? まだ敵の仲間が残ってるみたいな言い方だったと思うんっすけど」

「うん。他の仲間も追ってるし、多分私が倒した奴で最後だと思う。知っての通り、ログアウト後は携帯の電池がなくなるから、直ぐにログインなんて出来ないし、続けて攻められる心配はないから大丈夫。君も昨日、携帯の電源つくまで、普通よりかかったでしょ? でも、昨日は通常ログアウトだからそれ、早い方だよ。強制ログアウトなんてそれの二倍から三倍掛かるし、何よりローディング時間なくそのまま外に投げ出されるから」


 そう言って、Fは栄方面に向かって歩き出した。


「さっきの続きだけど、クランってのはゲームと同じでチームみたいなもの。チームを組むと色々と利点があるの。私はPIOってクランの副団長」

「副団長!?」


 話を聞いている限りでは、かなり高い地位にいるクランだと分かる。それの副団長と言うことは、矢張りかなりの実力者なのだろう。

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