銃と剣 17

 夢は結局、夢でしかないのだ。

 

 目覚ましに起こされ、颯太は頭を掻く。随分と懐かしい夢を見た。昔の事を夢に見るなんて、初めての体験である。

 携帯を見れば、昨日潤一に送るメールの画面が開かれていたままだった。自分は夢を見る程あのゲームに潤一を誘いたいのかと、颯太はまた携帯を投げる。きっと、どれだけ考えてもメールの文面なんて出てきやしないのだから。

 何度も言うが、喧嘩はしていない。避けている訳でもない。ただ、タイミングが色々と合わないだけなのだ。昔だったら、一緒の時間に登下校をしていたが、今は潤一には部活があり、颯太にはない。そもそもクラスも違えば、家が近い以外の接点はないわけで。

 しかしながら、これが再び昔みたいに戻るチャンスと言うのならば、あの頃みたいな関係に戻りたくないわけでもない颯太は考える。

 メールは無理だ。潤一相手には、どうも苦手で酷く性に合わない。

 じゃあ、どうする?

 きっと、今の時間は朝練の為、潤一は既に学校だ。云々唸りながら制服に着替え、リビングに顔を出す。遅い、寝癖! と、母親に言われながら朝食をかきこんだ。

 適当に髪を直して、顔を洗い、歯を磨き、家を出て駅に向かう。

 電車に乗り込む時に、ふと颯太は閃いた。そもそも、話しかける切っ掛けがないから、自分はこんなにも悩んでいるのではないだろうか?

 そうなのだ。確かに新しいゲームを知ったのは話題だが、昔ならまだしも、行成その話を出すには今はまだまだ距離がある。

 ならば、その前にでも普通に、友人の距離として話しかける切っ掛けが必要ではないだろうか?

 しかし、それがなんなのか、さっぱり思いつかない。

 元気? とか、最近どう? とか、それこそ、行成話しかけれるはずがないと思う内容である。

 潤一の性格的に、向こうもあの部活の事は気にしてないはすだ。いや、これは半分ぐらい、颯太の願望が入っている。あれから潤一と話した記憶は何処にもないわけだから。

 その時だ、後ろの女子高生達の会話が聞こえたのは。


「あ、しまった! 今日当たるのに教科書忘れたー!」

「英語?貸そうか?」

「マジで!? ありがとー! こう言う時、クラス違うと助かるよねー」

「だよねー。私が忘れた時はよろしくねー」


 ……成る程。

 確かにクラスが違えば、授業時間が被ることもなく、難なく教科書が借りれる。颯太は常に、非常によろしくはないが、教科書は常に全てロッカーと机の中である。所謂置き勉というやつだ。

 しかしながら、教科書を忘れたという口実は実にいい。これならば、自然に潤一に声も掛けれるし、会話をはじめられる。これはいい事を聞いたと、颯太はほくそ笑んだ。

 幼馴染に話しかけるだけのはずなのに、こんなにも計画を立てなければならい程、彼は自分に負い目があることに気付いていないとはなんとも間抜けな事だろうか。それが良いのか悪いのかは、それこそ誰にもわからないが。

 そうと決まれば早いもので、颯太は学校に付けば鞄も置かずに潤一の姿を探す。教室にはいなかった。まだ部室かもしれない。そう思って、階段を降りようとすれば、目当ての人物が目に入る。隣には誰もいない。潤一が一人でこちらに歩いてきている。

 絶好のチャンスだ。

 声をかけようと口を開いた瞬間、下を見ていた潤一が顔を上げた。

 颯太と目が合う。

 一瞬、ほんの一瞬だけ、潤一の眉間に皺が寄る。まるで、颯太になど会いたくなかったような顔を、彼はした様に見えた。颯太が、え、と驚く間も無く、潤一は口を開く。


「志賀……」


 それは、颯太の苗字であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る