第2話 日常の崩壊

 普通とは言えないが、何もない平和な日常を過ごしていた高校生、水閊海守みつか みもるは、

 今日も平和な朝を迎えた。

 両親は海外で仕事をしていて、兄弟もおらず、毎月銀行に送られてくるお金で、一人で生活をしていた。

 朝起きると昨日のつくり置きを食べ、学校に行く日もあれば、行かない日もあった。

 今日は、行かないことにした。

 特に体調不良があるわけでもなく、なにかほかにしたいことがあるわけでもなかった。だが彼は学校には行こうと思えない。


 彼にはやりたいことがなかったのだ。


 生きる理由が見つからず、途方に暮れていた。

 今日も彼はいつも行く海岸へと足を運ぶ。


 いつも通り何もするわけでもなく、ただ海を眺めていた。


 そこに、

「やあやあ、海守クン」

 と聴き慣れた声で後ろから挨拶をしてきた。

 振り向くと、やはりいつもここで会って話をしている

 シンだった。

 真を自称してはいるが、海守は彼の名字を知らない。

 まぁ、真も海守の名字は知らないが。

「おっ、やあ真君」

 少し嬉しげに返事をした。

 生きる理由がない海守にとって、真と話す時間は、幸福だった。

 これがかろうじて海守が生きている意味といっても過言ではないだろう。

 今日も何気ない会話をした。



 いつの間にか日が暮れていた。

 真が、突然悟ったかのように部活の時間だと言い出した。

 海守は腕時計を見ると、15:00だった。ぴったりだったが海守は驚かなかった。

「ほんとだ、今日もぴったりだな。」

 真が15:00ぴったりに気付くのはいつものことである。

 二人はじゃあねと言って別れた。

 海守は少し寂しそうな顔をして、近くのスーパーに入っていった。

 今日も飯を食って風呂に入って、適当なアニメを見て、一日が終わる。

 退屈はしていたが、この日常を嫌に思うことはない。

 もっと過酷で苦しい思いで生活する人たちがいること、

 何気なく過ごせることの幸福を、彼はわかっていたからだ。


 夕食の買い物を終え、スーパーを出る。

 いつも通りの帰り道を帰る、いつもの日常。


 ...だと思っていた。



 いつも通り海がよく見えるビル街の道を歩いていたら、目の前のアパートの二階から少女が飛び降りた。普通であったら何だと驚くであろう。しかし海守はそんなことも思わず。ただ、こう思った。


「綺麗だ...」


 と。


 その少女は、海守より少し年下くらいに見えた。海守の髪の青を半分薄くしたような輝きながらなびく髪。中学生くらいだから成り立ってるといってもいい、美しく可愛らしい顔立ち。遠い故郷を想うように潤う澄んだ青い瞳。そのすべてに魅了されてしまっていた。海守は綺麗だとしか考えられず、その場で立ち止まっていた。


 少女が地面に着地すると同時に、


 ドカァァアアン


 アパートが爆発した。


 海守は はっと驚き、状況を整理しようとしたが、平凡な彼にはそんな優れた状況把握能力はなかった。

 ただ立ったまま動けない。


 少女が走ってこちらの道に逃げてくる。海守の存在など頭に入っていないように。

 崩れたアパートの中からローブを纏った人影が出てきた。

 少女は一瞬だけ後ろを振り返ったが、すぐに走り出した。

 少女が立ち止まっている海守の横を通り過ぎる。

 その時海守の眼には、映った。

 少女が泣いているのが。


 その瞬間、海守の綺麗だという感情がある1つの感情に変化した。


 ───守りたい 。


 海守はただ、そう思った。

 生きる理由を見つけられなかった海守にとっては

 唯一感じた、生きる理由だった。




 ローブの人影が走ってくる。海守の横を通りすがろうとした。




 海守は前に立ちふさがった。





 ...誰かがどこかで笑っていた。

「僕の世界の神は誰になるのかな?」





 ...今日この瞬間、水閊海守みつか みもるの平和だった日常は、



 ...崩壊を始めた。

























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