その心は君の為に・エピローグ

「ジャスくん、今日の君の使命だが……」

 バリカの通信越しに話し掛ける。ヤツがビクリと震えるのが見えるようで、オレは笑い声を立てないように、必死にこらえて話を進めた。

「映画ジャステリオンの映像ディスクを予約することだ。勿論、特典映像付き、設定資料集、撮影裏話をおさめた電子ブック付きの特装版だ」

 ゴクリ……。器用にジャスが喉を鳴らす音を出す。

『ラ……ラジャー……』

 ヤツの喜びに震える声に、また吹き出しそうになるのを押さえて、オレは続けた。

「予約先は勝山かつやま書店。今、彼の書店で予約をすると、予約特典として書店が出版社の払い下げサーバーからサルベージした、二XXX年度版フルカラー特撮ヒーロー・ロボット大全がついてくる。すみやかに予約数内に入るように」

『イエッサー!!』

 張り切って家中を飛び回るヤツが目に浮かんで、オレはニヤけながら通話を切った。

「そういうことだから、アイツが予約にきたら、今、オレが予約した予約コードを教えてやってくれ」

 小学生時代からの友人、勝山書店、副店長、勝山まなぶを書店の喫茶コーナーから振り返る。カウンターで学が楽しげに頷いた。

「相変わらず、尊はジャスに甘いね~」

「見たら、結構、面白かったし、今回の事件で、しみじみヤツのありがたさに気づいたからな。ご褒美だ。あ、それと……」

「彩絵さんなら、店のサイトの予約ページを更新した途端、鑑賞用と保存用に二つ予約してきたよ」

「さすが……姉貴……」

 素早い行動に舌を巻く。

「しかし、どう予約に来るかな~」

 モニターを見ながら学がウキウキと呟く。

「スパイ風に尊が頼んだからね。ジャスのことだから暗号メールで来るか、それとも……」

 ピロン……。バリカのTalkアプリが音を立てる。開いたオレは思いっきり吹き出した。

『おい、尊。お前、お前ン家のジャスに何頼んだ?』

 同じく小学時代からの友人、健二けんじから画像付きメッセージが届く。

「何?」

 そこに映っていたのは、オレが去年の夏に買ったサングラスを着け、黒い帽子を被って、商店街を飛ぶジャスの姿。

『桜とファボが面白がって、後をつけ出したんだが』

「そうきたか~」

 学も笑い出す。

「ますます楽しみだ」

 笑いながらカウンターに戻る。

「そろそろ来るな」

 書店の前の、昼過ぎの明るい通りに、小さな影が現れる。そして、通りの向こうの隙間から健二と彼の娘のさくら、義弟のファボスと、この前、駄菓子屋で会った少年とその友達らしい少年達が、楽しげにこちらを覗いている。

 オレは口を押さえて肩を揺らすと、ジャスに見つからないように、こっそりと並んだ書店のサーバーの影に身を隠した。


その心は誰ために END Special Thanks ロボットデザイン 歌峰由子様

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