『無駄な子供』

 恒星レント系、標準時間、午後五時。第四惑星カイナックのラグランジュポイントに浮かぶ、宇宙駅・神田駅に隣接された、鉄道網に西地区からの電車が入る。ドアが開くと学校帰りの学生達が一斉に、ホームに出てきた。

「着いたか」

 読んでいたテキスト用のタブレットをカバンにしまい、少年はホームに降りた。

 明るい茶色の髪から飛び出た、同色の毛の生えた長い耳。半袖のシャツから出た腕の肘から下と、手の甲を短く覆う毛。地球人型の身体に、獣人型の異星人の風貌をプラスした少年は小さく息をついて、ホームを歩く人々と共に、高架を登り、駅の裏口から出た。駅に併設された駐輪場のパネルに、借りているスペースの番号を入力し、多機能万能カード、バリーカード、通称バリカをかざし認証する。

 機械のうなる音がして、駐輪場のドアが開き、地下から愛用の自転車が出てくる。彼は自転車を止めるロックを外すと、鍵を外して、三十分前に終わった降雨時間のせいでまだ濡れている路面へと走り出した。

 六月、ここ『神田』の移住民達の故郷、太陽系第三惑星地球の島国の気候を無駄に細かく再現する神田気象管理センターにより、不快過ぎない程度に調整された梅雨の蒸し暑さ。その纏い付くような空気に引きずられ、気持ちが沈むのを感じる。

「バーカ、折角、親父と母さんが学校に行けるようにしてくれたのに、早くから落ちこぼれてたまるかよ」

 調理師専門学校の経営科に通い始めて二ヶ月。自分の無学だった十三年間のブランクをひしひしと感じながらも、喝を入れるように声を出すと少年、福沢秀は自転車を力いっぱい漕ぎながら坂を登り、北東に向かう堤防のサイクリングロードを走り出した。

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