大魔神るほーのありがたいお言葉(ご主人様/作者/創造主編)

「なるほどな。やめたいのか?」

「ああ。だってさあ、誰も読まないのに書いてても意味ないだろう?」

「わしは別にかまわぬが、しかし今書いているものは終わらせろ。せっかくわしが大復活し、ライアンの奴をこてんぱんにのしているのだからな」

 

 俺の目の前で、牛の化け物みたいな大魔神るほーが腕を組んでそう言う。


「いやあ。今はいいけど。そのうちライアンがあんたをやっつける予定なんだけど?」

「それでもいい。最後まで書け。じゃないとドリームランドから消滅してしまう」

「ドリームランド?」

「そう。お前があきらめた話のキャラクターが迷い込む世界だ。勇者ライアンの話が書き終わり、結構いろんな奴が救われたぞ。わしも助かった。元の世界で倒されるとわかっていてもドリームランドで消滅するのは簡便したいからな」


 初めて聞いたぞ。

 そんな話……。


 俺はどういうわけか夢の中だ。

 夢だとわかってる夢を見ている。

 可笑しな感覚だが、これで3夜目なので、そんな感覚は麻痺してきてる。


 3日前から俺は夢でこいつ――大魔神るほーと話すようになった。

 こいつは俺が今書いている『勇者ライアン2-大魔神るほーの大逆襲―』のラスボスだ。

 『1』を書き終わって初めて小説投稿サイトに投稿して見たが、なーにも反応がなかった。それでも続編を書きたいと思って書き始めたが、1ヶ月前から進まなくなり、もうやめようと思ったとき、こいつの夢を見るようになった。


 明日小説を消してやると思って寝たら、夢にこいつが出てきた。

 大魔神るほーということはすぐにわかった。

 だって、俺が生み出したキャラだもん。


 俺は敵キャラながら、こいつの男気が大好きだった。

 だから2作目はこいつを復活させた。


「聞いているのか?」

「はいはい、聞いてる」

「明日起きたら、書くんだぞ。じゃないと消えてしまうかもしれない」


 大魔神るほーはぎろっと俺を睨むと消えた。



 翌日、やっぱり俺は書けなかった。

 というのは小説投稿サイトを見てしまい、やっぱり今日も読まれてないと思い、落ち込んでしまったのだ。


 やっぱり、しょうがねー。

 もうやめちまおう。


 俺はその日、サイトから小説を消した。



「おい、お前、作品を消しただろ?」

「るほー!お前、様子がおかしいぜ。体が半分消えてる」


 夢に出てきた奴は上半身だけが残っていて、ふわふわと宙に浮いていた。


「お前のせいだ。『1』を消しただろう?だから『2』はなくなる可能性が高くなり、わしの体は半分になった」

「ごめん!」


 俺は思わず反射的にそう謝る。

 そんな影響があるとは思いもしなかった。


「まあ、創造主にしてみればわしらなどどうでもいいだろうけどな。一度生み出された者はこの世界に現れるんだ。そして物語が進めば、それは形となる。お前、3年ほど書いているがどれくらいの話をあきらめた? わしは知ってるぞ。20本ほどあきらめ、267個のキャラが消滅した」

「そ、そんなに?! 知らなかった……」

「まあ、創造主なんてそんなものだ」


 そうるほーが言っている間に、その角の先端が消え始める。


「時間だな。まあ。わしだけじゃなくて、あの忌まわしいライアンも消えるのは嬉しいがな。が、残念だ。ドリームランドから出て活躍したと思ったら、消えるなんてな」

「待てよ!そう決め付けるなよ!俺が絶対に!」


 

 がばっ。

 俺は目を覚ますとベッドから体を起こした。

 そしてジャケットを羽織ると机に向い、パソコンの電源をつける。



「待ってろよ。るほー書き上げてやる!」


 俺はそう決めると、まずは消した話を再度サイトに載せた。そして、誰も読んでいないのはずだがとりあえず、お知らせという機能を使い、作品を消したことを詫び、再度更新する。


「よっし、これでお前の体は消えてないよな。後は話の続きを書くだけだ」


 実はプロットはできていた。

 前作が読まれていないことのショックで書く気が起こらなかった。


 でも今はやる気が100倍になった。

 

 先ほど見た夢で、消え行くるほーを見て、これじゃだめだと思った。


「るほー待ってろよ!」


 俺は気合を入れるとプロットを書いたメモを取り出し、打ち始めた。



「できた!!」


 近所の鶏が鳴き始めた朝方、俺は作品を仕上げた。


「これでお前は救われたよな!」


 俺はるほーと会えることを思い、パソコンの電源を消すと、ベッドに入る。

 睡魔はすぐにやってきて、俺は夢の中にいた。


「おい、創造主!どうなってるんだ!」


 るほーは、戸惑いながら俺の前に現れる。


「どうって。いいだろう?うわ、マジでかっこいい。俺の想像通り。よかったな」

「よかったって!わしはこんなこと望んでなかったんだが!」

 るほーはその端正な顔立ちをゆがめて、そう叫ぶ。



 牛の化け物の姿は実は呪いの仕業でライアンに呪いを解かれて、るほーは元の王子様の姿になった。


「王子様、いい設定だろう? 読者の度肝を抜いてやるぜ」

「……読者、いるのか?」

「うるせい。いるさ。1人くらいは。そんなこと言うなら、作品消すからな!」

「冗談だ!まあ、いい。倒されて終わりより、この方がましだ」

「まし? 全然、すごいだろ?」

「るほー様? るほー様? どこにいらっしゃるの?」


 ふいに甘い声が聞こえる。

 それを聞き、るほーの顔が青ざめる。

 声の持ち主はるほーの部下だった魔女めりーだ。牛からすっかりハンサムな王子様の姿になったるほーを愛してしまい、今や完全にストーカーになっている。

 大魔神だったころは魔法を使えたが、いまやただの人間……。

 毎日魔女から必死に逃げる日々を送っているという設定だ。


「くそ、めりーめ。じゃ、またな!とりあえず、悔しいが礼は言っておく!」


 るほーは俺にそう言うと慌しく駆け出す。


「あん、るほーさまーん!」


 長い黒髪に真っ黒な三角帽子、そして黒のワンピース姿のめりーがその後を追う。


 俺は笑いながら二人の様子を見ていた。



 その日、目覚めた俺は、完全に寝坊していた。

 このまま行かないほうがいいかと思ったが、行かないと母が小遣いを減らすとか騒ぐので、慌てて身支度を済ませると学校に向かった。


 その夜、俺は作品を見直した後、サイトに載せた。


 相変わらず、読者はいないようだ。


 でもまあいいや。


 とりあえず俺が書いたことであいつは幸せそうだったし。


 美形の姿で困った様子だったが、うれしそうにも見えたるほーを思い出し、俺はほくそ笑む。


 そして次の新しい話を書くべく、ワードを開いた。

 



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