序章 世界を救う使者たち

 ザン! という音とともに、その魔物は地に伏した。

「はあっ、はあっ、はあっ!」

 ユヒトと仲間たちは、深い森の中にいた。ユヒトは両手で剣を構え直しながら、荒い呼吸を整える。

「ユヒト! 危ない!」

「あっ」

 ギムレがユヒトの近くまでやってきて、そこに近づいてきていたもう一匹の魔物を手斧でなぎ払った。

「ギムレさん。ありがとうございます」

「おいおい。まだ礼を言うには早いぞ。とにかくここを早いとこ抜けていかなきゃならん!」

 確かに彼の言うとおり、まだまだ続々と魔物は地から湧いて出てきている。向こうのほうでは、エディールが木の上から弓矢を地上にいる魔物へと次々に放っていた。

「ユヒト!」

 白い獣の姿のルーフェンが、さっとユヒトの肩の上によじ登ってきた。

「このままじゃきりがない! 全部を相手にしていたら、そのうちこっちの体力が尽きてやられてしまうのは目に見えている。きみとオレの力を合わせて、ここを突っ切っていくしかない!」

 ルーフェンの言葉に、ユヒトはうなずいた。

「どうやらそうするしかなさそうだね」

 彼の周囲にふわりと風が舞った。風はユヒトとルーフェンを包み込み、辺りの木々や草をざわざわと揺らした。

「ギムレさん! エディールさん! 今から僕とルーフェンで、先頭を切ってこの森を突き進んでいきます! お二人はそのあとを走ってついてきてください!」

 ユヒトはそう言うと、トン、と地面を蹴った。すると、一陣の風が彼の足元から巻き起こった。

 ユヒトとルーフェンは、次の瞬間、風のようにその場から消えていた。あとには清らかな風が、彼らを護ろうとするかのようについていっていた。

「エディール! ユヒトに続くぞ!」

 ギムレが言うと、エディールは木の上からザンとおり、不機嫌そうな口調で答えた。

「言われなくてもわかっている!」

 そして彼らは、ユヒトらを追って、森の中を駆け抜けていったのだった。


 ――物語の始まりは、これより数ヶ月前へと遡る。

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