通った愛②

「違う感情…?」


「うん。」

ビクッ


雅樹の声が急に息が混じるような話し方に代わって、耳に息が大きくかかった。

…くすぐったいッ


「今は…、”早く遥くんを抱きたい”。」


ゾクゾクッ

「ま、雅樹…何言ってッ「もう、我慢できないな…。」待てってば、急にそんなこと言われても…ッ」


慌てて首を振ると雅樹はやっと耳から顔をどかしてくれた。


俺はすかさず雅樹をにらみつけた…んだけど、雅樹の目を見た瞬間それをことごとく後悔した。


「雅樹…なんて目してんだよ…。」

「ん?」


雅樹の顔は笑っているのに、目が笑ってない…というか、目が俺を食ってしまうんじゃないかと錯覚させる。


「そんな目で見…んなッ…困るッ。」

息が…うまくできないッ!!


「そんな目にもなると思うんだけど。俺は遥くんに欲情してんだから。」


雅樹は簡単にそんなことを言いやがってっ!!


「あとは、遥くん次第だよ?」

「・・・え?」


雅樹は俺の頬にキスを落とした。

肯定しろと言いたいんだな…。


「俺は・・・雅樹になにされても、いいと思う。」

「本当になにされても?」


「うん・・・だから許可なんてとるな…。」

雅樹に許可なしに触った俺に拒否権なんてないじゃないか…。


俺は口をきつく閉じて目を伏せた。


「それって、遥くんの本心じゃないよね?」

「本心だ。」


「じゃ、どうして俺から目をそらすの?それ、遥くんが嘘つくときの癖。」


分かってるなら、どうして俺に意見を聞くんだよ…。

「遥くん…まさかとは思うけど、俺に無理やりやったから”自分には拒否権なんかない”なんて思ってないよね?」


ギクッ

せっかくうつむいていたのに、ピクリと体が震えた。


この反応に気が付かないほど雅樹の目も節穴ではないわけで…。


「へぇ!分かりやすい反応するんだねぇ、遥。」

雅樹の声が大きく低くなって怒りがあらわになったのが耳から感じ取れる。


「いッ!?」

俺の手首を束ねる手にも怒りが伝わっている。


「誤解してるみたいだから一応言っとくけどさ、俺は別に無理やりやられたわけじゃないよ?」

「・・・はい?」


こいつは何を言ってるんだ?

実際にいやだって言って抵抗だってしてたじゃないか。


「まぁ、途中まではなにされてるか理解できなかったから抵抗してたけど・・・」


雅樹は話をやめて、体を密着させた。

「・・・ッ!?」

「何驚いてるの?遥くんもなってたんだよ、あの時。」


俺の太ももに、雅樹の…あれがッ、当たってる!!?


「あの時は俺に欲情しちゃったからしちゃったんだから、別に後悔する必要がない。そうでしょ?」


「…あぁ…。」

そうか・・・雅樹はずっと怒ってなんかなかったんだ。


「何ホッとしてんの?俺怒ってんだよ?」

「はぁ?なんでっ!」


今までで怒るとこないじゃん!!

「だって遥、俺に体売ろうとしてたんでしょ?」


「はぁ?売ってねぇし!」

「ならなんで目そらすの?」


本当に無意識だった。

俺の目は雅樹から少しずれたところを見ていた。


「それに、あんなに正直だった遥くんの体が萎え始めてる。」

「え…ッ、ばッ、見んなよ!!」


俺が雅樹の目線を追うと、雅樹は俺のものをじっとりと見つめていた。


「おい、聞いてるッ!?見るのやめろっての!」

俺はちょっとでも自分の中心を隠そうと必死に身をよじった。


けど、雅樹は目線を逸らしてはくれない。

こうなったら、どうにか落ち着かなきゃッ


絶対に変な気は起こさないように…俺はゆっくりと深呼吸をしようとした・・・のに


「ッ!」

雅樹の顔は俺のすぐそばに…いや、俺の唇は雅樹の口でふさがれてしまった。


「ん…やッ…ふ…。」

声を出そうとしたのが間違いだった…。

俺が口を開けた瞬間、ぬるっとした感触が唇を通って行った。


それが雅樹の舌だってことは、考えなくてもわかる。

だって…あの時の感触と同じだったんだから…。


雅樹の舌は、抵抗がやんだ俺の口の中にあっという間に侵入してくる。

そして俺の舌に触れるとゆっくりと舌の横をなぞる。


「ッ…ふッ…。」

雅樹は俺の反応を楽しむかのようにくくっと喉を鳴らした。


何かやり返そうと舌を動かそうとした時、雅樹の舌は、俺の上あごを舌先でくすぐった。


ゾクッ

え…、なにこれ…。

こんな感触知らない…ッ


俺の反応が伝わってしまったのか、雅樹の舌は俺の舌をやさしく包み込んで、先をチュッと吸った。


「うッ…ふゥ…ッ」


ゾクゾクッ


また、こんな感覚…俺…おかしくでもなっちゃったのか…?


チュッ


やっと俺の唇が解放された。

俺から離れるときに、雅樹の口から透明な糸が伸びた。


俺は、その糸が切れたとき何となく切ないと思った。

雅樹との関係が切れるような・・そんな感覚になって…。


「遥、これからどうしたい?」

「…へ?」


雅樹の目は逃がす気はないみたいだけど…決定権は…俺にゆだねるってこと?


「俺は、遥くんの本心で望まれないなら抱かない。・・・でも、望むならもう逃がさない。」

「雅樹…俺…。ヒッ!?」


あの感覚が欲しくてとっさに答えようとしたのに、急に下半身に鈍い痛みが走った。

「遥…理性で答えて。」


…雅樹にはもう俺が流されてしまいそうなことに気づかれちゃったのか…。


「雅樹…お願いッ、手…放して…痛い…。」

「じゃ、答えて。遥の心を俺にくれる?」


俺はこくりとうなずいた。

もちろん抑えられてて流されるものなんてない素面の心で。



じっと雅樹の目を見つめてはっきりと呟いた。

「雅樹…俺を抱いて。」


すると雅樹は、カクンとうなだれて大きなため息をついた。


「遥…、あなたはどうして…。」

雅樹は俺の口を耳元に近づけた。




「もっと俺を欲して。全部受け止めてあげる。」


もう十分雅樹が欲しくてたまらないはずなんだけど…。

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