カウントダウン②

5秒前

「受付お願いします。」


「はいは~い!!」


甲高い声だな…。

耳が壊れるんだがッ!!


「あるぇ~?もしかして、はるくん?」


「…え?」

顔を上げるとそこには…



誰だ?


「覚えてない?生徒会長の潟見よ。」


うわ…、まったく記憶してねぇ…。

「あ~、覚えて無いなぁ?」


俺がこくりとうなずくと、彼女はひとつ咳ばらいをした。


「その頭は形だけのようね。」

「・・・はい?」


「だからヤンキーって屑の集まりっていうのよ。」


この声の凄味と言い、睨みと言い・・・


「堅物ブス美…ハッ。」


や、やべぇ・・・仲間の中で内緒にしてたあだ名だったのにッ!!!!


ヒッ!


顔を上げると、さっきの睨みのままで口角だけ上げた潟見さんの姿があった。


4!

「…ブッ、クハハハハハ…!!!!」


…え?

「怒らないのか?」


「はは、だって…あまりに雑なあだ名なんだもん。第一、名字だけで作るって…、しかもフルネームて…、やば、マジで笑い止まらないんだけど。」


あまりの変わりようと人格の違いに、唖然としてしまった。


「あ、そうそう、笑ってる場合じゃないね。ここに丸して名簿と同じ番号札持ってて。まだ会場の中準備できてないから。」


「お、おう。」


俺は手で示された名簿に丸をして、"坂井"を探した。


…無い…?


「なぁ、学年に"坂井"って名字いないか?」

「坂井?…それって、雅樹君のこと?」


…え?


「ま…さき?」

「うん、中田雅樹くん。」


俺の中で、何かがガラガラと崩れる音がする。



3!

「坂井が…雅樹…?」


俺の頭では、もう情報の更新ができずにバグってしまっている。


「あれ、潟見さん?」

後ろから聞こえてきたのは、一番聞きたくて、一番聞きたくない声だった。


「なんだ、やっぱり一緒に来てたんだ。」

「当たり前じゃん、俺ら愛し合ってるもんね?」


坂井…いや、雅樹はなれなれしく俺の肩に手を置いた。


パシンッ

「え?」「あ…。」


俺は反射的に、手を振り払っていた。


チラッと雅樹の顔を見ると、寂しいような、苦しいような、なんとも言えない顔を俺に向けていた。


「あれあれ?けんか?」

こんな時なのに、いや、わざとなのか俺らの修羅場に合いの手を入れてくる。


「潟見さん、会場空くのまだかな。」

気まずいのか、雅樹は会場に早く入ろうと潟見さんを急かす。


「あ~、もう開いたみたいだよ?」

「そう…。遥くん、行こ?席が混まないうちに。」


俺は首で大きくうなづいて意思表示するしかなかった。


だって、今声を出したら、確実に涙が止まらなくなる。


いろんな感情がぐちゃぐちゃと俺の中をかき乱す。


視界がぐわんぐわんと歪んでくる。


2!

それから何も考えられないまま、時間だけが刻々と過ぎる。


「遥さん、二次会行きますか?」

「あぁ。」


だから、雅樹の声になんとなく応じるだけで精いっぱいだった。


「「「かんぱ~い!!!」」」

そして気が付くと二次会に簡単に参加してしまっていたわけだ。


「・・・まず。」

「なに言ってんだよ、こんなうまい飲み物この世にほかにないぞ!」


そりゃ、アルコール好きならな。

しかも、今日は絶対おいしく酒は飲めそうにない…。


な!の!に!


俺の悩む原因は、楽しそうに女性たちと酒をたしなんでいる。


「やだも~、中田君。」

「ハハハ…。」


「…。」

むかつく!!腹が立つ!!ザルめ!!悪酔いしてゲロはいてしまえ!!糞が!!


と心でどんなに思っても、雅樹の楽しそうな顔を見ると、息が苦しくなる。喉が割れてしまうくらい乾く。


雅樹を渇望する心を紛らわすために、無理やり酒を流し込む。


アルコールの冷たい感触が何回喉を通っても、潤うことはなかった。


分かっていても、雅樹への感情を見ないように必死に流し込んだ。



1!



「うぉおおおおおいぃいいい!!!!!!!雅樹!!」


俺の怒号に会場中がびくりとしてこちらに注目する。


フフ…、この感じ、すげー気分いいかも。

「びっくりした…。」


そんな中、雅樹は驚いた顔一つしないでそう言いやがった。

「お前は、俺のこと簡単にだます悪党なんだな!!」


今まで平気にしていても、今日の口は絶対に止まらない。


俺は、固まるやつらをかき分けて、雅樹にグイッと近づいた。


「お前はいいよな!俺を手の上でころっころ、ころっころ出来てたんだからよ!!」


「遥くん、誤解だよ…そんなッ!」


俺は簡単に雅樹の胸倉をつかんで…ぶら下がった。


で、足のところをえいえいとけっこくりながら勝手に声帯が再生させる言葉を口から吐き出した。


「俺がッ、いったいどんな思いでこの気持ちを抱えてきたと思ってんだよ…。お!れ!は!雅樹が好きなんだッ!!高校の時からずっとずっと!!嫌われてしまうの分かってても、何も止められないんだよ!!・・・ッ!?」


もっと声を出したかったのに、俺の泥酔様は限界が来たみたいだ。


「おぇぇえええええ~~~!!!!」


俺はすっきりしてから、意識を手放した。

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