二人の思い出~坂井雅樹ver.~
バタンッ
「ハハハッ!!」
やべ、笑っちゃった。
遥くん、顔赤くなるの早いし、押しに弱いし…。
こんなに簡単に思い通りに動かせる人もいるんだな。
ふと携帯の画像を開くと、2枚の写真が新しく入っている。1つは嬉しそうに桜にカメラを向ける姿と真っ赤になって顔を引きつらせて笑う姿だった。
もちろん遥くんの。
もう気づいてる人もいるかもしれないけど…俺は遥くんが好きだ。
いつからって?そんなの愚問だよ。
高校の時から。イジメられてても、好きって気持ちは消えることは無かった。
罪を憎んで人を憎まず…って所かな。
でも、もし遥くんが俺のことが分かったら…無理やり自分のそばに引きずり込む…つもり。
だから、それまでは幼い後輩でいよっかな。
さて。
そろそろ更新されてるかな…。
俺はパソコンを開いてブログを見る。
遥くんのブログ…遥くんがフォローしろって卒業式の少し前の日に言ったから見てるんだけど…本人は忘れてるってとこかもね。
一応、名前を出すのは癪だから『プリン太』としてフォローしてる。
ピロン♪
ちょうどパソコンに手をかけたときに通知が入った。
…クスッ、俺の顔隠してくれてある…。
・・・・・・・・・
ガッシャーン
「お前、マジで馬鹿だろ。」
「…へ?」
俺は、今すごぉく理不尽に怒られてます。
教室の一番後ろで正座して怒られてます。
みんな見てます…みんな同じ嘲笑う仮面をかぶっているみたいに感じた。
「…あ゛?俺はコロッケパンつったんだよ!!なんで焼きそばパン買ってくんだよ。」
…は?僕はコロッケパンって聞きましたけど。
なんて言えない当時の俺は、静かに謝るしかできなかった。
「…すみません…買い直してきます…。」
俺はコロッケパンに手を伸ばした…のを遥くんの手にパシンッと払われてしまった。
「もういいよ、これ食うから!」
それ食べたかったんだろが。
「気安くお前みたいな分際で触るんじゃねぇよ!!」
えー、ひどくないですか。俺らタメですよね。
「…んだよ。見んなよ…。」
へぇへぇ、帰りますよ。
どうせ誰も俺がいようがいまいが気にしないだから。
俺がカバンを持って出口に歩き出そうとした…
その時、
「待てよ、雅樹!!まだ用事済んでねぇんだよ!!」
「…。」
俺は元の位置に戻った。
「俺は、今すごぉく紅茶が飲みたいの!無糖な。」
またパシリか…。俺は、自分の!!自分の!!(大事だから、2回)財布を持って立ち上がった。
「だ~か~ら~!!最後まで聞けよバカ!!!!!!!!」
教室中に遥くんの声が響いた。
「…はい?」
「だから、お前のその水筒、渡せよ。」
「…あ、はい。」
なんだ、それで良かったのか…。
でも、これって間接キスとかにならないのかな。
まぁ、そんなに気にしない質なんだろうな。
なんて思いながら、俺は自分の水筒を差し出した。
すると、遥くんは顔を真っ赤にしてしまった。
ほう…俺がそれで照れるとでも思ったのかな…。
少し構うか。
「…どうかしましたか?」
俺は首を少し傾げながら尋ねた。
すると、もっと真っ赤になった。
ゆでだこか、あんたは。
「な、なんでもねえよ、み、見んな!!」
クスッ
この時からだったのかもしれない。この人を離したくないと思い出したのは。
それまでは憧れでしかなかったけど…こんなに崩れるのが早い人がいるのか…と。
1年の時にあこがれから告白をした。
そしたら、『振らないから、パシリになれ。』って言われてこんなふうにしてるけど…、殴られたことなんか何回もあるけど…俺が気絶してるあいだに保健室に運んで治療し始めちゃうんだから…
あんたの方が、ずっと馬鹿だよ…遥くん。
…でも、そんな考えは、甘過ぎたことを知ることになる。
・・・・・・
それはある湿った空気が肌に纏わり付く放課後、昨日まで降っていた土砂降りは嘘だったように晴れ晴れとした空。
俺は遥君に傘を返すために少し早めに教室についていた。
昨日、傘を持たずに呆然と立ち尽くす俺に遥君が無理やり傘を渡してくれた。
いつもひどいこと言われてるしされてるけど…お礼言わないとな…。
そう意気込んでいたのに、今日遥君が姿を現すことがなかった。
「本日は西島君が風邪お休みです。」
HRで遥君の欠席を知った。
俺は担任からプリントをもらって、遥君の家を訪れることにした。
遥君の部屋は、一人暮らしだと聞いたことがある。風邪を引けば撃沈しているのだろう…。それか、家族がどうにかしているのか…。
ピーンポーン。
鳴らしても返事はない。もしかしたら眠ってるのかもしれないな…。でも一応聞こえてたらあれだし、名前と要件だけ…。
「中田雅樹です。プリントを持ってきました。」
中から少し物音はするもののやっぱり返事はない…。
置いていくか…。
「待てバカぁ゛あ゛!!!」
そのひどくかすれた声に俺はポストに入れかけたプリントを引き抜いてそのまま遥君の部屋に飛び込んだ。
飛び込んでから思ったけど…たとえ男一人だって言っても…チェーンもつけてないのはあまりに無防備だよ…。
ってそれよりもだ。
寝室を開けるとぐったりと青い顔をしてベッドに寝転がる遥君の姿があった。
でもその目は俺の突入に驚いたのか見開き固まっている。
そこからの俺は、もう無我夢中だった。
傍から見たら"甲斐甲斐しく世話をするいじめられっ子"だろうけどそんなこと構ってなどいられない。
実際に…俺のせいで遥君は昨日雨に打たれてこの状態なんだから。
だから玉子粥を作ったのも家のお下がりでだし、粥が暑いから温度を確認しながら冷まして渡そうとした。…俺にはただそれだけだったのだけど…。
見上げたその顔は真っ赤なゆでダコ状態で恥ずかしそうというよりかはひどく怒っているようにも見えた。
でもその表情から目が離せなかった。
それがどうやらまずかった。
「お前、誰にでもそうやって色目使ってんの?」
「え?」
聞き返した俺の視界はぐるんと天井を向き持っていたはずのプラスチックのレンゲはカランという軽い音を立てて床に叩きつけられた。
つまり、俺の体も床に強く叩きつけられて上から遥君に押さえつけられてしまった。
俺が混乱する間に遥君の目はみるみる冷たいものに変わっていった。
「人を甘く見たらどうなるか教えてやるよ!!」
目の前の声は低く凄んで、それだけで俺の体は拘束されたように動けなくなった。
その途端、ビリッという引き裂かれる音とともにワイシャツは破られボタンは弾け飛んだ。
この時やっと俺は自分の置かれている状況を理解し、体が震えた。
「やッ、やめて!!」
バシッ
「…。」
やっと出た声は無言の激痛となって返ってきた。
その痛みは今まで味わったことのない程の強い衝撃で頭が揺れるのを感じた。
今のが平手だったのか…それとも拳だったのかも判別できない。
後は俺は壊れたラジオのように何度も何度も拒否反応を示した。
必死に体を動かして跪き、必死に声を荒らげて抗った。
でも膝を曲げた開脚の格好で押さえつけられ、遥君のモノが穴に触れる感触でもうその行為が最後まで止むことは無いのだと悟った。
俺は中が押し開かれる鈍痛に身を委ね目を閉じた。
その時だった。
「…ごめん…」
微かに聞こえた声に俺は目を開いた。
そこに写ったのは…
溢れ出した感情を隠さない遥君の泣き顔だった。
その顔は泣きじゃくっているわけではなく声を荒がるわけでもない。
でもその表情はいつ泣き出すかもわからない子供のように歪んでいた。
そこからの激痛の往復は何故か恐怖とは違う感情が心の中を覆い尽くしていた。
遥君はすごく弱い人だ。
弱いからまだ自分の中に蠢く感情の正体を知らないんだ。
それならまだ知らない方がいいよ…遥君。
これに気がついたら、もう抜け出すことは出来ないし、助け出してあげることも出来ない。
だって…たった今…俺の感情が答えを見つけてしまったから。
この真っ暗な闇の中を灯火もなく進む道は選ばせるわけには行かないよ。
まだね。
そして俺は遥君と最初の離別を決意し意識を手放した。
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