第13話 突入

------------------ナザリック第九階層 執務室




「そこに座ってくれ」



アインズは最奥部の机に座り、ルカに促した。



「それで、聞かせてもらえるか。アルベドの事を」



「待って、その前に。魔法最強化マキシマイズマジック力場の無効化リアクティブフィールド



キン!という音と共に耳鳴りがするほどの静寂に包まれ、アインズと一対一で向かい合った。



ルカは向かいの椅子に腰かけ、ゆっくりと、噛み締めるように事の詳細を話した。




2350年の話をした後アルベドがルカの寝室に一人でやってきた事、アルベドの創造主がユグドラシルを去る間際に心無い言葉を彼女に投げかけて引退し、その言葉がアルベドを深く傷つけた事、そこから彼女の中に創造主を含むプレイヤーに対する猜疑心が生まれ、彼女の中にアインズを除く全てのプレイヤーへの殺意を抱かせた事。



アインズを守りたい一心で他のギルドメンバーから遠ざけたいが故に力を欲していた事、ルカがそれに応じ彼女を始祖オリジンヴァンパイアに転生させた事、彼女の心の支えになるべくルカがタブラ・スマラグディナに代わり創造主として彼女を支えていこうと決心した事、そしてアルベドはそんな思いをアインズに気付かせまいと今の今まで必死に耐えていた事を、アインズに話した。




アインズはそれを聞いて拳を握り、机に乗せた手を怒りに打ち震わせていた。



「.......あんの.....クソタコ野郎........よりによって生みの子であるアルベドにそんな事言いやがって.....しかも去り際に.......!!」



普段見せる冷静な言葉遣いはどこかに吹き飛び、そこにいたのは純粋なアインズ自身だった。




「....これが全てだよ。誤解しないでほしいんだがアルベドの思いは、たった一つに結実している。彼女は君を守りたい、その一心なんだ。彼女の事情を知った今、アインズにはこれからその思いに応えてあげてほしい。もちろん私は君とは別にあの子を守り、育てていく。私は一度言ったことを絶対に撤回したりはしない」




「よく分かった。俺はあいつを許さない。我が子に向けてそんな事を言い放ったあいつを俺は絶対に許さない!....しかし今やアインズウールゴウンにいるのは俺一人。つまりアルベドは俺の子だ。俺には我が子を守る責務がある。我が子がそんなに苦しんでいるのを見て、それを放っておく親がどこにいる?!お前が覚悟を決めて母たろうとするのなら、俺は父であろうと思う。もうこれ以上、アルベドに苦しい思いは絶対にさせない。絶対に.....」




ルカは席を立ち、机に乗せられたアインズの手を握った。




「その言葉が聞けて、安心したよ」



「ルカ......」



「あの子を私達で一緒に支えてあげよう。ね?」



「....ああ。お前には世話ばかりかけるな」



「あの子を転生させたのは私。だからもうアルベドは私の一部。あの子を泣かせないように、私達でがんばろう?」



ルカは机を回り込み、椅子に座るアインズの膝に腰かけた。そのまま両手をアインズの首にかけて抱き寄せる。



「ルカ....ありがとう」



アインズは膝に座ったルカの背に手を回し、体を抱き寄せて抱擁し合った。



-------------------------------------------------------------------



その日はナザリックの客室に泊まらせてもらった。ルカは熟睡していたが、何者かの気配を察知して目を覚ました。しかしその気配に殺気はない。



ルカはゆっくりと起き上がり、ドアの方を見た。向かって右側にスラリとしたホワイトドレスを着た女性が立っている。アルベドだった。



「アルベド? どうしたのこんな時間に」



左腕の時計を見ると、午前2:00を回っていた。



アルベドは黙ってルカのベッド左脇まで歩き、ルカを見下ろした。



「あの、ルカ、その.....起こしてごめんなさい」



アルベドは腰の羽をパタパタさせながら両手を前で組み、モジモジさせていた。



「寝れないなら、一緒に寝よう。おいで」



ルカは羽毛布団を剥いで、アルベドのスペースを開ける。アルベドはそれを見て、うれしそうにルカの隣へ寝そべってきた。ルカは羽毛布団をアルベドの上にかけ直し、腰に手をかけて手繰り寄せた。アルベドのフローラルな香りに包まれながら、頭を合わせてルカは目を閉じた。



「どうしたの、眠れないの?」



「....はい」



「明日も早いから、一緒に朝まで寝ようね」



「あの...ルカ?」



「ん?」



「その、今日、アインズ様に私の事を話してくれたのですか?」



「....うん、話したよ。よく分かったね」



「....部屋の外で聞き耳を立てていたのですが、声が一切聴こえてこなかったので...」



「魔法をかけてたからね。それに、他の人に知られたくないでしょ?」



「それは....そうなのですが」



「アインズも分かってくれたから、大丈夫だよアルベド。安心して」



「そう言われても....気になりますルカ...」



「君の思いに対して、アインズがどう思ってるかって事に?」



「はい......」



「そうか。......怒ってたよ」



「....え?」



「君の元創造主であるタブラ・スマラグディナに対して、猛烈に怒ってたよ。生みの子に何て事を言うんだって」



「それは、本当、なんですよね?」



ルカはうっすらと目を開けて、横に添い寝するアルベドの左頬を優しく撫でた。



「私は、大切な子を前に嘘は言わないよアルベド。本当の事さ」



「それで、アインズ様は何と?」



「...君をこれ以上泣かせたりしないって。私が君を守りたいと思うように、アインズも君を守っていく、こんな苦しい思いは二度とさせないって言ってたよ」



「....それは、本当...なのですね、ルカ」



アルベドは両手で口を覆い、嗚咽を出すまいと必死で堪えていた。



「私が君に嘘ついたことある?」



ルカは人差し指でアルベドの涙を拭った。



「...い、今のところは、ありません....」



「じゃあ約束するよ。私は君に絶対嘘は言わない。....永遠に」



「....ルカ......」



「大好きだよ、アルベド。私の大事な子」



「....ルカ....うう...!」



アルベドはそう言うとルカに抱き着いてきた。胸元に顔を押し付けてきたアルベドを撫でながら、自分の足をアルベドに絡ませて体温を感じた。



「あったかい...アインズと私を守ってね、アルベド」



「.....はい」






アルベドが泣き疲れて眠るまで、ルカは背中を優しくさすり続けた。



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翌朝ルカが目を覚ますと、アルベドは隣で寝息を立てていた。起こさないようにそっと布団を出たが、アルベドはそれに気づいて目を覚ました。



「....ルカ?」



「おはようアルベド。まだ寝てていいよ」



「そういう訳には参りません、今日も狩りに行くのでしょう?」



「まあそうだけど、それよりアルベド....昨日泣いちゃったからひどい顏してるよ?」



「ええ?!私としたことが」



「アルベド、この階層にお風呂ある?」



「え、ええ。大浴場がありますが」



「じゃあ、一緒にひとっ風呂浴びに行こう。そんな顏をアインズに見せたら、私が怒られちゃうよ」



「それは...そんな、一緒にですか?」



「何か問題ある?」



「い、いえその、だってルカはもともと、男....だったのでしょう?」



「....あのねー、この女の体になってからもう200年経つんだよ? それに言ったでしょ。私はもうこの体と心を受け入れる事に決めたの。心も体も女同士で入るんだから、問題ないでしょ?」



「そう...でしたね。それなら行きましょう、ご案内します」



大浴場は客室ロビーを右に曲がってすぐの所にあった。その入口をくぐり脱衣所でルカは下着を脱ぎ捨てた。アルベドは袖から腕を抜き、スルリとホワイトドレスを脱いできれいにたたみ、籠に入れてバスタオルを羽織り大浴場の扉をくぐった。



そのあまりの広さにルカは驚いていた。天井も高く、非常に開放感のある作りだった。

ライオンの彫像の口からお湯が浴槽に注ぎ込まれ、細部まで作りこまれた豪華な大浴場だ。



「すごーい!!やばいあたしナザリックに住みたくなってきた!」



「フフ、この浴場も至高の御方がデザインされたものなのですよ」



「そうなんだ、いいセンスしてるじゃん! ほらアルベド、背中流してあげるからこっち座って」



そう言うとルカはたらいにお湯を汲み、腰掛に座るアルベドの背中にゆっくりと数度お湯を流してあげた。続いて自分の体にも湯を流して、アルベドの手を取り浴槽へと一緒に体を浸けた。



「うっひゃー、極楽極楽!! これは黄金の輝き亭以上だな、最高!」



「ふー、私も解き放たれた気分です。ゆうべは気疲れしてしまいましたからね」



「そうだね、アルベドこっち向いて。顏拭いてあげる」



ルカは頭に乗せた手ぬぐいをお湯に浸して絞り、アルベドの顏を優しく拭いた。



「よし、きれいになった。それにしても広い浴場はいいねー。はーあったけー」



ルカが目をつぶり浴槽の淵に背を預けると、アルベドが浴槽の中で手を握ってきた。そのままルカの右肩に頭を乗せてくる。ルカは何も言わず手を握り返し、左手でアルベドの右肩を抱き寄せた。何も言わずとも、意思が通じ合っている。そんな瞬間だった。



しばらく湯舟に浸かり、ルカはアルベドの右頬をひと撫でして手を引いた。



「あんまり入ってるとのぼせちゃうよ。出よう、頭と体洗ってあげる」



浴槽の前にあるシャワーの手前にアルベドを座らせ、軽く流した後にシャンプーを手に取り、頭皮をマッサージするように優しく泡立てていく。背中まで伸びる長い髪も丁寧に洗い、シャワーで洗い流した。続いてトリートメントを手に取り、アルベドの髪になじませていく。



「...上手ですねルカ」



「よくミキの髪も洗ってあげてるからね。慣れたもんだよ」



全体にトリートメントをなじませた後再び洗い流し、スポンジにボディーソープを染み込ませると、アルベドの長い髪を束ねて体の前に回し、ルカは背中を優しくこすっていく。腕、足、胸部、腹部を髪に泡がかからないよう丁寧に洗い、再度シャワーで全身を洗い流した。



「ありがとうルカ。次は私が洗ってあげます」



「あー、大丈夫だよアルベド。私髪短いし、さっと自分で洗っちゃうから」



そういうとルカはシャンプーを手に取り、ワシャワシャと泡立てては洗い流し、トリートメントを馴染ませては洗い流し、スポンジで乱暴に体をこすって自分一人で洗ってしまった。



「よし、サッパリした!湯舟にいこ、アルベド」



「え、ええ」



ルカはアルベドの手を引くと、足から湯舟にどっぷりと浸かった。



「は~、染みるわー」



「....ルカ、だめですよ」



「へ?何が?」



「あなたは磨けば光るんですから、もっと女性らしくしないと」



「い、いやー、あんまりそういうの考えた事なかったからなー」



「その....私の新しい創造主なんですから。もっとしっかり体を労わってください」



「...あー、うん。そうだね分かったよ。でもなー、あたしアルベドみたいにダイナマイトバディじゃないしなー」



「何を言ってるんですか、せっかく引き締まったいい体をお持ちなんですから。ルカも磨けば光ります」



「フフ、ありがと」



そう言うと、ルカは逆にアルベドの左肩に頭をもたげて寄り掛かった。



「....全く、甘えん坊な創造主ですこと」



「嘘はつかないっていったでしょ。これも本当のあたしだよー」



「....あなたらしいですね、ルカ」



二人は浴槽の中で、再度お互いの手を絡めて握り合った。



---------------------------------------------------------



風呂から上がりアルベドはアインズの元へと行き、ルカは客室に戻って武器と防具を装備して待機していた。そこへミキとライルから伝言メッセージが入った。



『ルカ様、おはようございます』



『おはようミキ、ライル。ゆうべはよく眠れた?』



『ええ。そう言えばルカ様、昨晩はルカ様の部屋にもう一人誰かがいたようですが....』



『ああ、うんアルベドが来て話をしてたんだよ。その後は二人で朝までぐっすりだった』



『そうですか、ならよろしいのですが』



....さすがはミキ、足跡トラックでルカの部屋をチェックしていたようだ。しかしルカに取ってその気遣いはありがたい以外の何ものでもなかった。



『そう言えば二人とも、この階層の大浴場には行った?私今日初めて行ったんだけど、もうすごいから。まだなら絶対行ってみたほうがいいよ』



『ルカ様、私達はすでに何度も行っております』



『あの広大な湯舟は黄金の輝き亭を超えておりますな』



言うまでも無く、二人は既に経験済みのようだった。



『えー!ちょっと二人とも、行ってたなら何で教えてくれないのよ』



『いえ、ルカ様ならオートマッピングスクロールで既に確認済みかと思いまして』



『共有のチェックマークも付けておいたのですが、見落としましたなルカ様』



『ぶーー、いじわるー』



『フフ、それよりそろそろ集合時間ですよ。私達もロビーに移動しましょう』



『りょーかい。じゃあ後でね』



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ルカとアインズ達は客室ロビーに集合し、エリュエンティウ西部へと転移した。そこからしばらくの間は、砂漠地帯でのパワーレベリングをこなしていった。ルカはナザリックの客室と大浴場を気に入り、イグニスとユーゴも含めナザリックに泊めてもらう事が多くなっていった。そうしてそこから数週間が経った。



アインズ達は日々のパワーレベリングにより着実にレベルを上げていき、その平均レベルは140にまで達しようとしていた。しかしイグニスとユーゴに関してはルカの意向もあり、レベル105から他クラスへの転職を禁じられていた。しかし彼らは何も言わず、ただルカ達のバワーレベリングに黙々と付き従い、戦闘経験を積み重ねていった。



エリュエンティウ西部でいくつか手に入れた神器級ゴッズアイテムである青い証言エビデンス・オブ・ブルーや、炎はおろか地獄の炎に対しても完全耐性をもたらす超希少アイテム、命の燐光ライフ・オブ・フォスフォレセンス等のアクセサリー系アイテムは、イグニスとユーゴに一つずつ分配したのみで、残りは全てアインズ達に管理を委ねた。




そして遂に、その時がやってきた。




--------------ナザリック第九階層 応接間 午後21:30



「おめでとうアインズ、そしてアルベド、デミウルゴス。もちろんこの場にいない他のみんなもね」



「ああ、これも全てはお前達のおかげだ。多大な協力感謝する。お前達を信じてここまで着いてきた事を、今では本当に正解だったと私は心底思っているぞ」



「ルカ、私からもお礼を言わせてもらいます。その...本当にありがとう」



「私も含め、階層守護者達がここまで力を伸ばせるとは...全てはルカ様の導きがあったからこそでございます。ご尽力、心より感謝致しております」




「私もだよアインズ、アルベド、デミウルゴス。でも....まだ終わりじゃない」



「ああ、そうだな。残り10レベル、ここまで来たなら徹底的に極めてやろうじゃないか」



「そうだね。そこで私から1つ提案...と言うよりお願いがあるんだけど。もちろん嫌だったら、即刻断ってくれて構わない」



「遠慮するなルカ。何でも言ってみろ」



「...君達の総合的な火力は、私の想像を遥かに超える所まで来た。そこで頼みたいのだが...私達の目的である、ガル・ガンチュアの捜索に同行してはもらえないだろうか? これには一応パワーレベリングという側面も持つから、全くの不利益となるわけじゃない。ただ私は、そんなつもりで今まで君達をパワーレベリングに付き合わせた訳でもない。もしそう思ったのなら、断ってくれて構わない。私達は今すぐにこの場を去ろう」



テーブルに目を落とすルカを他所に、アインズは左に座るアルベドに顔を向け、次に右に座るデミウルゴスにも顔を合わせて、大きく溜め息をついた。



「...そのくらいの事が出来なくて、お前達にどう恩を返せると言うのだ?承知した。喜んで同行させてもらおう」



「アインズ...!」



ルカはテーブルに乗せた両手を握りしめ、希望に満ちた笑顔を向けた。




「それで、その地点の場所は割れているのか?」



「あ、ああもちろん!今地図を出す」



ルカは中空に手を伸ばし、オートマッピング用スクロールを取り出した。



「場所はここ、エリュエンティウから東へ向かった先にある山岳地帯だ。このエリアを集中的に探索する事になる」



「了解した。アルベド、デミウルゴス、この件を後程皆に伝えよ」



「「ハッ!」」




-----------------------------翌朝 10:00




フル装備とフルバフを終えた全メンバーが集結した。アインズ・シャルティア・アウラ・マーレ・コキュートス・セバスに、ルカ・アルベド・ミキ・ライル・イグニス・ユーゴという構成だ。デミウルゴスは2グループをカバーする遊撃に回ってもらうことにした。



ルカはエリュエンティウ東部の山脈入口に設定した転移ポイントをイメージし、魔法を唱えた。



転移門ゲート



時空の穴を抜けた先は、青々とした緑が生い茂る3000m級の山脈が目の前に立ちふさがっていた。ルカは全員に即時警戒を求め、自らも足跡トラックを使用して細心の注意を払いながら先頭に立った。麓から尾根に向かう間に地の動像アースゴーレム緑竜グリーンドラゴンと戦闘になったが、もはやアインズとルカ達の敵ではなくなっていた。



そうして幾度かの戦闘を経てルカ達は山を越え続け、山脈エリア中央付近の盆地へと辿り着いた。ルカはそこから北へと慎重に歩を進めた。ルカ・ミキ・ライルが足跡トラックで警戒していたにも関わらず、そこへ何の脈絡も無しに突然巨大なモンスターがポップした。その姿は全長30mを超え、不定形かつ全身が目玉と触手に覆われた見るもおぞましい姿をしていた。



「状況、レイドボス!! こいつはヨグ・ソトスだ、弱点耐性は無い!純粋な火力勝負で行くぞ、アインズ、マーレ、ミキ!!超位魔法準備!!」



「了解した!」



「りょりょりょ、了解しましたルカ様!!」



「かしこまりました」



「コキュートス、アルベド、シャルティア、デミウルゴス、セバス、ライル、アウラ!!可能な範囲で敵のタゲを取れ。HPが削られたら即座に引け、絶対に無理はするな!!」



「了解シマシタ」



「分かったわルカ」



「了解でありんす!」



「承知致しました」



「かしこまりました、ルカ様」



「了解」



「分かりましたルカ様!!」



「イグニス、タンク達のHP全体回復を頼む!!ユーゴは火力支援しつつ後方に待機!」



「了解しました!」



「了解ルカ姉!!」



「今だ、タンク前に出ろ! 後衛組全員準備はいいな、飛行フライ!!」



ルカは空中高く飛び上がった。それに合わせてアインズ・マーレ・ミキも飛び上がる。



全員は空中で天高く腕を掲げた。ルカを中心に黒・青・白・紫の巨大な魔法陣が折り重なる。



眼下ではタンク組の7人が懸命にターゲットを引き付けながら攻撃を加えている。その後方でイグニスとユーゴは程よい距離を保ちながら支援魔法を放ち続けていた。上空に浮かんだ4人の頭上に、強大なエネルギーが凝縮されていく。ルカはその場にいる全員に伝言メッセージを共有し、叫ぶように指示した。



『今だ!!!全員ヨグ・ソトスから離れろ!!!』



それを聞いたタンク組とイグニス・ユーゴが弾けるように後方へと飛び退く。




ルカは周囲に浮くアインズ・マーレ・ミキに目を向け、息を合わせて両手を下方に叩きつけた。





「...超位魔法・最後の舞踏ラストダンス!!」



失墜する天空フォールンダウン!!!」



霊妙の弾丸エーテリアルバレット!!」



因縁の災害カルマディザスター!!!」



凝縮された無属性の超高熱源体がルカを中心に集約され、一点に集中して敵を射抜き、それは山脈を揺るがすほどの大爆発を引き起こした。地表にいた者は後方に飛び退きながらその場に身を伏せて、爆発の衝撃波から逃れていた。



その余波で巨大な茸雲が上がり、敵は跡形もなく消滅した。こちらの死傷者はゼロ、レイドボスを相手に上出来すぎるほどだった。アインズチームと遊撃に回ったデミウルゴス、そしてルカチームにいたアルベドの体が淡い光に包まれて、レベルアップしたことを示していた。



「...たった一匹倒しただけで、もうレベルが上がるとは。この敵は一体どれほどの経験値を秘めていたのでしょう?」



デミウルゴスは光に包まれながら、自分の体を見て感嘆の声を上げていた。



「そうだねデミウルゴス。今のヨグ・ソトスは、私達が過去にガル・ガンチュアで戦った個体と同一のものだった。という事は、方角は間違っていない。ここら一帯を念入りに探れば、きっと何かが出てくるはずだ」



「承知致しました。それではこのデミウルゴス、空中より周囲を偵察して参ります」



「うん、お願いね」



超位魔法を放ち、巨大なクレーターと化した爆心地を覆う煙が晴れてきた時、アインズがふと何かに気づいて立ち止まった。目を凝らすと、爆心地中央に何かある事に気づいた。


クレーターを降りて確認しようとしたアインズはそれに近寄り、絶句した。



「こ...これはまさか...ルカ!おいルカ、すぐにこちらへ来い!」



アインズの動揺した声を聞き、ルカもクレーターの中に飛び降りて爆心地中央へと駆け寄っていった。



「アインズ、どうしたの?」



「...今の、ヨグ・ソトスとか言ったか?そいつが、とんでもないものを残していったようだぞ。...これを見ろ」



「ん?」



風が吹き煙が晴れると、垂直に突き刺さる一対の剣が目に入った。それは柄から刃までの全てが黒一色に染まり、一切の光を反射しようとしない。そしてその周囲には、同じく光を反射しない謎の黒い物質が散乱していた。アインズは装備した金色の杖を離し、その2本の剣をゆっくりと地面から引き抜くと、目の前に高く掲げた。



「...エーテリアルダークブレード......で、間違いないなルカよ?」



焦るアインズとは対象的に、ルカは笑顔でそれに応えた。



「ああ、間違いない。...フフ、似合ってるよアインズ」



「ばっ!...茶化すな。それよりも、これがここでドロップしたという事は....」



「そうだね。さっき戦ったヨグ・ソトスはガル・ガンチュアが由来・若しくは、ガル・ガンチュアから流れてきたモンスターである事は、これでほぼ確定した訳だね」



「ふむ。......ところでさっきから気になっていたのだが、この黒い塊は何なのだ?」



アインズは足元に複数散らばる物質の欠片を手に取った。指先で感触を確かめてみると、何かの金属であることが伺えた。



「ルカ、この金属が何か分かるか?」



「もちろん知ってるよ。それもガル・ガンチュアでしか手に入らない希少な鉱石だ。鑑定してみなよ」



「うむ。道具上位鑑定オールアプレイザルマジックアイテム



------------------------------------------------------------------------------------



アイテム名:暗黒物質ダークマター


アイテム使用条件:????



アイテム概要:質量を持ち、しかし光学的に観測が不可能な謎の物質。特異点の持つ重力異常で偶発的に圧縮される事により生まれた超希少金属でもある。その特質はあらゆるエネルギーを無限に吸収し、光はおろか闇さえも永遠に飲み込み続ける。これを取り扱い加工できるのは、物質自体と同じく暗黒の特性を極めた者のみに限定される。



使用可能クラス制限:ヘルスミス



------------------------------------------------------------------------------------




「なるほどな。これは確かに初めて目にする鉱石だ」



「うん。まあ簡単に言ってしまうと、武器に追加効果である最上級のエナジードレイン特性を持たせるために必要な金属なのよ」



「ほう。ガル・ガンチュアという場所には興味が尽きないな。このような希少アイテムが他にもドロップするとなると、私達としても一目置かなければなるまい」



「そうだね。それでアインズ、物は相談なんだけど....もし良ければ、そのエーテリアルダークブレードと暗黒物質ダークマターは私が持っててもいい?この後にドロップするアイテムは、全部アインズ達が持って行っていいから」



「ああ、もちろん構わないぞ。どちらにしろお前達でなければ扱えない代物ばかりだしな。このロングダガーと鉱石はお前が持っていてくれ」



「ありがとう、助かるよ」



ルカはアインズからエーテリアルダークブレードを受け取り、地面に落ちた暗黒物質ダークマターも全て拾い集めると、中空に手を伸ばしてアイテムストレージに2つを収めた。



「よし、先に進もう。さっきみたいにガル・ガンチュアの敵がまた出るかも知れないから、注意して進んでね」



「了解した」



伝言メッセージ。デミウルゴスそっちはどう、何か見つかった?』



『いいえルカ様。上空から北へ向かって盆地を進んでおりますが、これといったものは何も見つかっておりません』



『そうか。ガル・ガンチュアへの転移門ゲートが開いてるかもしれないから、それも見逃さないように注意してね』



『かしこまりました、ルカ様』



そうして地表と空中から広大な盆地を隅々まで回り、くまなく探したが何も発見出来ないまま、北西部の行き止まりへと着いてしまった。その間先程のようなレイドボスやモンスターの類が一切出現しなかった事にも首を傾げたが、必ず何かあるはずだとルカは山間部の行き止まりとなった箇所を詳しく調べ始めた。アインズ達も手分けして辺りを捜索し始める。



ルカは山肌と岩で閉ざされた淵沿いに手を当てて進んでいると、その先に一か所だけ、妙に不自然な密集した木陰がある事に気が付いた。その木陰の間を縫って奥へ進むが、その先には岩の壁しかない。ルカはため息をついてその壁に寄り掛かろうと手をかけた時、異変が起きた。



そこについた手が岩を擦り抜けてしまったのだ。ルカはそれを見て勘づき、咄嗟に魔法を唱える。



物体の看破ディテクトオブジェクト



すると目の前の岩が消え失せ、その向こうに岩の裂け目が出現し、奥を覗くと地下への階段が伸びていた。



ルカは大慌てで木陰を飛び出し、周囲で捜索していたアインズに走り寄った。



「アインズやった!やったよ!!見つけたよ入口!!」



「何、本当か?!」



ルカは喜びもつかの間、全員に伝言メッセージを共有して知らせた。



『みんなー!入口はっけーん!! 私とアインズの所に集合してー!』



そう言うと全員がルカの元に小走りで駆け寄ってきた。



「あの先に見える木陰が入り口だよ!いやーもうまさかこんな山奥で、しかも入り口を幻術で隠してあるなんて世にも思わなく....って、その...」



ルカは咄嗟に両手で口を塞いだ。嬉しさのあまり感極まり、涙が頬を伝っていく。ミキとライルが左右からルカに寄り添い、その体を強く抱き寄せた。ミキとライルの目にも涙が滲んでいる。



「ここまで...ここまで、本当に長い旅路でしたね、ルカ様」



「遂に...遂に我らは..グスッ....この200年間旅をし...その答えの一片を...手に入れ...ううっ」



ライルは周りの目も気にせず、ルカを抱き締めながら男泣きした。普段は冷淡で無愛想な男が、人目も憚らず泣き崩れているのを見て、宿敵としてライルを見ていたコキュートスまでもがもらい泣きしていた。



「...オ前ガ...イヤオ前達ガソコマデシテ手ニ入レタカッタトイウソノ答エ、我ラモシカト見届ケサセテモラウゾ、ライル」



アインズはうれし泣きする3人に歩み寄り、ルカを抱き寄せるミキとライルの肩に手を置いた。



「さあ、3人とも。お前達の気持ちも分かるが、まだ私達にはやるべき事が残っている。あの入口の先に何が待ち受けるのか、まだ謎は解けていないのだ。泣くのは全てが終わってからでも遅くはないだろう?」



それを聞いてミキとライルはルカを抱きしめていた手を離し、マントの裾で涙を拭いてアインズに向き直った。ルカも急いで涙を拭いながら、アインズに顏を向ける。



「ご、ごめんねアインズ、情けないところを見せちゃって」



「...フフ、気にするな。私は....いや私達は、お前達の向かうその先に必ずあるであろう真実に向かってついていく。例えその先が死に繋がっていようともな。お前は今日まで私達に、真実しか語ってこなかった。それならあの入口の先にも、お前達の言う真実が眠っているはずだ。私はお前達の語る真実が嘘ではないと知った。なぜなら今日この山脈に来て、お前達はその真実の一つを私達に見せてくれた。ならば私達はその行く先を見る為、持てる力を全てお前達に託そう。死して尚、我らは共に歩むと思え....ルカ」




「もう、ちょっと....やめてよアインズ。そんな事言われたら、あたし......」



ルカは強がろうとしたが、アインズの言葉を聞いて我慢できず再び泣き崩れてしまった。



アインズはルカに寄り添い、涙で濡れたルカの顏を胸元に抱き寄せた。



「....行くぞ。わが友よ」



「....うん」



ルカはアインズの背に手を回し、胸元のローブに顔を押し付けた。





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■魔法解説


超位魔法・最後の舞踏ラストダンス


数ある超位魔法の中でも最大級の火力を誇る無属性の超位魔法。そのため1日に置ける使用回数制限はたったの1回のみである



超位魔法・霊妙の弾丸エーテリアルバレット


大気中から集めた燃焼性物質にエーテルを混合させ、超高熱火球を造りだし敵の頭上へ無数に降り注がせる魔法。魔法着弾後、1分間の強力な炎属性DoT効果を併せ持つ



超位魔法・因縁の災害カルマディザスター


宇宙より暗黒物質を召喚し、超重力の竜巻を引き起こして相手を捻り殺す闇属性魔法



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