第9話『デンドロビウム』


 5月4日午前12時、相変わらずだが『オケアノス・ワン』は混雑をしている。

草加店だけでなく、他の店舗でも混雑をしていたので特定プレイヤーの来店が理由ではないだろう。

【混雑と言う意味では草加店以外も該当するが――何かあったか?】

【2クレジット100円とか?】

【そう言うキャンペーンはない。ただし、それはリズムゲームVSの話だ】

【つまり、他のリズムゲームでは100円2クレをやっていると?】

【そうなるだろう。それだけで混雑しているとは考えにくいが】

【やはり、直接確認する必要性があるのか――】

 つぶやきサイト上では様々な憶測が他に多数――存在していた。

しかし、そう言った憶測はネット炎上やSNSテロを引き起こす為のきっかけに仕様としているのだろう。

直接確認する事――それが、真実を確かめるには手っ取り早い。



 草加店の店内は、予想以上の混雑はしていなかったので――満員電車の様な混雑を予想していると肩透かしにあう。

そこまで混雑してしまった場合、避難誘導等で大変な事になるので入場規制が必須かもしれない。

(ここまで混雑している理由は――?)

 エレベーター経由で2階に姿を見せたビスマルクは、扉が開いたと同時に人が多い事を驚いていた。

新台入荷は既に昨日に確認済みなので――それが理由ではない。有名プレイヤーか? しかし、知っているような人物を近くで目撃する事はない。

では、どういう理由で混雑をしていたのか? それは――センターモニターへ整理券を発行しようとした所で判明した。

(ランキングが――?)

 ウィークリーランキングがモニターに表示されており、その上位変動が激しかったのである。

過去に上位ランキングで名前のあったリシュリューは圏外に落ちており、それとは別にムラマサと言う名前のプレイヤーがランクインしていた。

【3位:ムラマサ】

 その順位は――予想に反して3位と言う高いポジションだったのである。

しかし、ウィークリーランキングなので集計タイミングの関係もあるだろう。集計時間の事情でランクインしたとビスマルクは考える。

「まさか過ぎたな――」

「あのデンドロビウムが2位に落ちるなんて」

「対象楽曲的な関係もあるのだろうな。実際、2曲だけであのスコアが奇跡だったような物だ」

「3曲をプレイしたプレイヤーとのスコアが開くのも――時間の問題かもしれない」

 耳に入ったギャラリーの話によると、該当する3曲の内――デンドロビウムは1曲をプレイ出来ていないらしい。

どのような事情でプレイ出来ていないのかは不明だが、難易度の関係でスルーしているとも考えられないし――。

(アーティスト的な事情――も考えにくいか)

 即座にビスマルクがタブレット端末で対象となっている楽曲を検索したが、3曲ともオリジナル楽曲である。

この中に版権曲――それも特定芸能事務所関係だったら、プレイしないプレイヤーもいるかもしれない。

しかし、リズムゲームVSは基本的に版権曲を収録していない為に――何故に1曲だけプレイ出来ていないかの理由がますます分からなかった。

「あの楽曲、解禁条件が厳しい物だったか?」

「それも違うだろうな。アップデート更新で追加されたはずだ」

「譜面で難しい箇所があるとも考えにくいが――」

 他のギャラリーからは、何故に1曲だけ放置しているかの理由が分からないという声も出ている。

デンドロビウムが放置している楽曲に関して言えば、ビスマルクはプレイ済みの物であり――敢えて放置している以外で未プレイなのは考えられない。

これは明らかに何かあったとしか――そう思えないような異変だったのである。



 同時刻、2階の別リズムゲーム――丁度、このゲームはビスマルクがアルヴィスと対決していた機種でもある。

それをプレイしていた人物とは、何とデンドロビウムだった。表情の方は――真剣その物と言うべきか。

何故、彼女がリズムゲームVS以外をプレイしているのか――と疑問に思うギャラリーもいるだろう。

 しかし、彼女は歴戦リズムゲーマーである。リズムゲームVS以外はプレイしない――と言うプレイヤーではなかった。

逆に言えば他のリズムゲームにも関心を持ち、様々な事情を知っているからこそ――リズムゲームのおかれた現状を変えたいと思っているのだろう。

(やはり――微妙にずれている)

 華麗なプレイを披露し、周囲のギャラリーを沸かせているような外部印象とは違い――デンドロビウムは何かを焦っていた。

今の彼女はある意味でもトランス状態になっており、周囲の状況を確認している余裕はない。あくまでも、目の前のゲーム画面に集中していると言ってもいいだろう。

そこで感じていたのは、プレイヤーにしか分からないような微妙な演奏感覚のズレだった。

 2曲目の楽曲は――そういった微妙なずれを修正できずにスコアは思った以上に伸びていない。

周囲からすれば、高いスコアを記録しているのに――という声はあるかもしれないだろう。

 このリズムゲームでは、筺体的な事情やヘッドフォンに非対応と言う事もあって、何時ものヘッドフォンは筺体近くのカバンにしまっていある。

全てのリズムゲームで、ヘッドフォン対応になればゲーセンでも爆音を響かせて――という環境は減るだろう。

ある種の騒音問題にも似たような事情を持っているのだが、対戦格闘ゲーム等のサウンドが重視されないゲームではボリュームを下げて運営している所もある。

 しかし、それが出来ないのがリズムゲームなのだ。リズムゲームで音楽が聞こえないのは致命的である。

そうしたゲーセン事情を踏まえ、ヘッドフォンが使用出来る機種が増えたりしているのだが――筺体によってはヘッドフォンのコードが邪魔になる物もあるかもしれない。

ヘッドフォンをしていないのでプレイが鈍っている訳ではないのだが――何時ものプレイと程遠いのは事実かもしれない。

初めて触る機種と言うのを差し引いても、リズムゲームVSで見せているようなプレイと比べると――違和感を持つのは間違いないだろうか。

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