第12話 リスクと報酬

 スパルトイ四体との戦闘バトルを終え、俺たちが手にしたポイントは20P。

 スパルトイ一体につき5P(5円)の計算になる。

 獲得ポイントは初級最弱モンスターのネバイムが1Pなので、五倍に増えたことになる。

 今回のバトルは敵の群れを抹消デリートするのに30秒かかった。また、四方を囲まれて奇襲されたのもあり、パーティー全体で削られたTPが40秒。セコンド

 被ダメージに関しては四人パーティーになったことで、敵の攻撃が分散されかなり余裕ができたと言える。

 バトル時間30秒で20SIMポイント、時給に換算すると2400円。(一人当たりでは600円。)

 これは、時間がゆるす限り休みなくモンスターと戦いつづけた場合の収益。中級モンスターの報酬ポイントが大幅に増えたといっても、四人で戦えば利益も当然分散されてしまうため、一人当たりの時給はそこそこと言ったところか。

 スパルトイの寿命は300秒(セコンド分)ミニットであるため、プレイヤーはその3分の1である100秒のセコンドTPを失うと死亡することになる。その際のマイナス報酬ポイント額はハロウィン城の場合6000Pとなっている。

 時給600円でも、一回死亡すると6000円分のマイナスとなりプレイヤーは資産を減らされる。

 ゲームで得られる収入にはそれがチャラになるかもしれないリスクを伴う。

 これを割に合う作業と考えるかはプレイヤー次第だが、このゲームでは九割以上の者が利益を出せていない。ほとんどの者が時間を削られ、死亡によるマイナス報酬ポイントを運営に搾取されてる結果となっている。

 それでも、俺にはこの時給は魅力的であるように思える。リスクを最小限に減らし戦いを効率化する方法を確立できれば、ゲームをやっててバイトの最低賃金に近い収入が手に入る。

 好きなことだけをやって、食っていける道がある。

 今はその可能性が開かれてる時代と言える。

 タカシがケータイでゲームアプリ画面を見ながら、言う。

「地下3層のモンスターでは得られるポイントもそれなりだね。でも、ダンジョンはまだまだ深い。もっと奥へ進んでいけば、この地下城はさらなる素顔を見せるはずさ。」

 ダンジョンを深層へと下りていくことは、我々へのリターンが増える代わりに稼いだ額をごっそり奪われるリスクも高まることである。

 リスク管理ができずにポイントを失いつづければ、ゲームの運営会社にお金を支払う義務が生じる以上、単に有料のネットゲームをしてるのと同じになってしまう。

 お金を払ってゲームをする。

 それが昔は普通だった。

 今は違う。

 遊びは義務であり、ゲームをすることでお金を稼ぐ。

 こんな時代になることを、過去の人々ゲーマーは想像できただろうか。

 リスクを伴うなら、損がでれば早めに撤退する冷静な判断力は必須になる。

 マイナスを最小限にするには、けっして熱くならずにキカイの心で淡々と損切りをしてくしかない。株でもゲームでも、熱くなって我を忘れると損失を被るのは変わらない。

 逆にそれができれば、儲けるチャンスはいずれ生まれる。



 スパルトイとの戦闘バトルの後、俺たちは地下3層のフロアをしばらく拠点にしてモンスターを狩る作業をつづけた。ハロウィンと題する地下城だけに、西洋のお化けやゾンビなどが主に出現する。

 カボチャのお化けは相変わらずよく現れる。

 得体の知れない光の玉(魂のように見える)が出てきたり、壁に掛けられた絵の中の人物がうっすらと現れて襲ってきたりする。フランス人形っぽいドールが気味悪く動いて追いかけてもくるし、なぜか気色の悪いアンドロイド風のロボットもいる。

 巨大なベビードールがのしのし歩いてきた時は、その一見かわいらしい見た目にエリカなどは喜んでいたが、ドールが首をもぎ取って投げつけてくると彼女は涙目で絶叫しながら逃げだし、その後すぐさま炎魔法で人形を焼き尽くしてしまった。

 お化け屋敷で大声で逃げ回る女子高生みたいな反応だリアクション

 ごく普通の一面もあるんじゃないか、あいつにも。

 二時間ほどが経過したところで、プレイヤーとしての残り時間(TP)がゼロになったため一旦ゲームを打ち切ることにする。

 このダンジョン内で今日得た収入が一人当たり1260円。二時間で割ると、時給は630円の計算になる。

 初級のフィールドでの俺たちの稼ぎが時給で500円ほどだったので、収入は少しだけ増えた。負債すら抱えかねないリスクを犯してダンジョンに挑んだわりには、大してうまみがないように思える。

 ただ、これは四人パーティーで行動したために儲けも四等分されてることも加味して考えとくべきだろう。仮に俺とエリカの二人だけで同じペースで狩りが可能ならば、収入は単純に二倍になる。

 もちろん、その場合戦闘バトルで死亡するリスクは増加することになるが……。

 敵の傾向としては、まず残り寿命(従来のゲームでいう『体力』に相当する)が長くなると同時に戦略の多様さが増した。

 初期のモンスターではせいぜい体当たりか単調な魔法攻撃しかしてこなかったが、ダンジョン内のそれはいかにプレイヤーの時間を奪うかを考えて行動してくる。ハロウィン地下城では幽霊の敵が多く出没するため、姿を透明にして我々からは見えなくなってしまうこともしばしば。

 そうなると、どこにいるのか分からず攻撃する対象を探すのに手間がかかる。しかし、うっすらと目だけ光ってたり、影は消えずに残ってたりするのでよく見れば、敵の居場所を知ることは可能だ。

 ただでさえ倒しにくい相手でもあるので、プレイヤーは敵の位置をいち早く知る情報を掴まなければ時間ばかりを失う羽目になる。

 その上で、厄介なマインドコントロールやら催眠術ヒプノシスなどの技を用いてくるので、けっこうタチが悪い。精神の病や呪いの治療は心霊術師のスピリチュアリストシオリが行えるので、今のところは被害を小さく抑えられてはいるのだが。

 四人パーティーでなかったら、おそらくまともに戦うことすらできていなかったのではないか……。

 俺とエリカでは攻撃する役の人しかいない。

 タカシはなぜか盾として『海亀の甲羅』を所持してるので、パーティーの守りを固めることもできる。

 亀の甲羅である理由は、たぶん木こりの職業では剣士や兵士、騎士などに比べ装備品に恵まれないため、仕方なくといったところだろう。

 もちろん、このゲームでは金さえ出せば軽量で上等な盾くらいいくらでも手に入る。だが、そういう道具アイテムはとうぜん値も張る。

 中級プレイヤーのタカシにとって、ちょうどコスパの良かった盾がカメの甲羅だったのだと思われる。

 タカシとシオリのチームは、守りと治療をこなしつつ攻撃にも優れる。

 これをたった二人でやってるのだから、要領が良い。

 エリカはまだ攻撃のための魔法しか使えないし、俺は剣のコアへの命中率を上げるために重い盾を装備してない。左手がふさがることで、身体の動きが制限されてしまい剣の技に集中しづらくなるためだ。

 俺たちは守りを考えてない、攻撃に特化したパーティーと言える。

 バランスが良くないのは火を見るより明らかだ。

 守りと治療。

 これは、一回の戦闘が長びくことにもつながるので、得られるポイントが割に合わないことが多いこのシムゲームでは弱点にもなりうる。しかし、ダンジョンに潜って稼ぐのなら必須の戦術になってくる。

 自分の身を守ることをいかに効率化するか。

 それが、このゲームを攻略する一つの肝になるのは確かだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る