そして……

「ついにこの日が来たぞ」


 ツヤマは僕に向かって高らかに宣言した。


『どういうことだ?』


「俺たちを疑うやつがいなくなって、俺たちがいうことは本当だと分からせたからさ。だからこそ俺たちは、ついに言いたいことを言える」


 わからない。僕にはまだわからなかった。でもツヤマは嬉しそうに笑ったまま、僕にカメラを向ける。


「さあ、今度はお前が言いたいことを話せ。それが俺の目的だからな」


 そして、全ては始まった。


「画面の向こうのみなさま、お聞きください。今、この日本に、大変なことが起こっているのです」


 そう言って、ツヤマは僕にカメラを向けた。


「彼の故郷のY市では、ある宗教が広まっています。土着で、長きにわたるものです。この宗教には、カラスを敵視し、迫害する。そんな風習があります。一般的な嫌悪なんてものじゃないです。もっとひどいものです。それではカラス君、よろしくお願いします」


 僕はそう聞いて、ようやく理解した。僕とツヤマの利害が一致している理由を。


 僕は、あの街で起きたことを話した。カラスがどうやって迫害されたのか、疑問を呈した者が——あの子がどうなったかを。


 次の日にはもう世論は動いていた。


 Y市に動物愛護団体が乗り込んだり、宗主のヤローの家に、侮蔑の貼り紙がされたり。


 はっきり言うと、ざまあみやがれ。でも、僕はすっきりしたわけではなかった。


 僕は謝りたいだけなんだ。復讐したかったわけじゃない。


 でも、ここまでしてくれたツヤマの頼みを無下にはできず、僕は彼の持ってくる、世の中の隅に隠れた悲劇を喋り続けた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る