・プロローグ


 ご乗車ありがとうございました。プロローグ、プロローグでございます。お降りの際はお忘れ物がなさいませんようお願い致します。

 

 ドアが開きます。





 左に風を感じた。


 その風はまさしく春の風と言うに相応しく、それ以外の言葉を入れようとすると無慈悲に押し返されるほど美しい風。

 その正体はちょうど駅のホームを通過する“あの”貨物列車ではなく、階段を駆け上がってホームに出てきたセミロングの女子高生。

 駆け上がってきた勢いはそのままに美しい絹糸を比喩させる光沢と柔らかさを兼ね備えた髪を揺らし、皆の視界に入れながら通り過ぎる。しかし、そのコンマ数秒で起こった美しい光景に浸る時間は光の速さで過ぎ、無理やり現実に戻らされるように周囲が状況を理解し始める。


彼女は止まらない。

7月の空に鮮血が舞った。




                         

次は、青年、青年でございます。閉まるドアにご注意下さい。

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