手詰まり

「……なあ、ジェームズ」

「……なんだ?哲郎」

現在、


別行動をしていたアドルフの退場を確認したジェームズと哲郎は、途方に暮れていた。


理由は簡単。

勝ち目が無くなったからだ。


「今、このステージの生存者は俺とお前、二人になった」

最初にメディックのカルロスが退場、その後、カルロスを救助に行ったアドルフも奮闘虚しく退場した。


敵であるオリジナルは最終形態ステージ3。

HPゲージはまだ半分近くある。



「本来、このゲームにおいて、我々生存者にとっての勝ち筋は大きくわけて二通りだ。まあ、この勝ち負けの判断基準は人にもよるが、大前提は生きる残るか、死ぬことだ」


これに関しては説明不要と言ってもいいほど当たり前のことではあるが、生きるか死ぬかの世界において、勝つとはつまり生き残ることだ。


生きていればその後はどうとでもできるし、逆に死んだらそこまで、後には何もない。


故に、現在のこの状況、

人を殺すために探している強大な敵、逃げる生存者という構図。


生存者側は生きること自体難しいこと、戦って勝ち取らねばならないものとなっているのだ。


そんな生存者にとっての勝ち、つまりは生存する方法は、哲郎曰く二通り。


まず一つ目は、このステージ内のどこかに5つある魔法陣の内3つを書き換える。


そうすることで、このステージをステージとして区切っているバリアのような結界を無力化し、外へ逃げることができる。


外へ逃げれたからなんだというかもしれないが、どうもモンスター達にはそれぞれ縄張りのようなものがあり、ステージとして区切られている範囲内からは結界が消えても出てくることはないという。


そして二つ目が、このステージの敵、

つまり、モンスターオリジナルを倒し、脅威を取り除くという方法。


相手は体長10メートルオーバーの怪獣だ。

それも全身ヨロイみたいな分厚い鱗に刃物のような爪、牙。

凶器に覆われているようなものだ、生身の人間では当然勝ち目がない。


だから狩る側モンスター、逃げる側生存者、という力関係となるのである。


しかし、どういう訳か、このステージ内には奴らに対抗する強力な武器が様々なところに用意されている。

そのどれもが現代人のジェームズすら見たことも聞いたこともない超兵器ばかり。


強大な敵との力関係をひっくり返すほどのものばかりである。


それを手に入れることができれば、たとえ相手が戦車みたいな装甲を全身隙間なくしていようが、岩や鉄板すら紙のように切ってしまう刃物が指先についていようが関係ない。

それらを押し除けて倒すことも可能となるのである。


あとは敵の居なくなったステージ内をゆっくりと索敵し、魔法陣を書き換えて出るもよし、

そのままゆっくりと寛ぐもよしである。


ただ、それにも人数がいる。


最低でも前衛二人、後衛一人、


前衛はどちらかが攻撃、どちらかが守備に徹しないと、あの巨体には届かないし、体格差がある相手の攻撃を片手で防げるほど優しくはない。

そして後衛の支援なしには手数の差、スピードの差は埋められない。



差し違えようにも、相手の体力が残り過ぎているのである。

いくら超兵器とはいえ、あくまで対人で見た場合である。

怪獣からしたら今哲郎がもつライトニングブレードだって、ちょっと切れ味のいい爪楊枝くらいにしかならないらしい。


これらのことから、今の状況を見るに劣勢と言わざるを得ない。

先程まではなんとか五分五分といったところだったから、勝敗がかなり傾いたということになる。


逆転の目は、残りの生存者、つまりは哲郎とジェームズが二人で攻守に分かれて、片方がうまく敵の攻撃を受けるこてができ、敵がうまくこちらの攻撃をまともに食らってくれるくらい、


そんなことある訳がないのだ。


「つまりこのステージ、俺たち生存者側の負け。全滅コースってやつだ」


投げやり気味に武器を捨てた哲郎が呟く。


この世界に来て間もないジェームズも、その様子を見て、本当に手詰まりであることを悟り、肩から力が抜ける。

「……そうか」


「……まあ、安心しろ。ジェームズ。この世界へ来て最初のゲームだ。お前だけはなんとしても勝たせてやるよ」


「……そんなことができるのか?」


負けと聞いて、明確な死を自覚し始めていたジェームズは呆気に取られる。


「……ああ、さっき言ったろ?勝ち負けの定義は人それぞれだと。一般的には勝ちは自分が生き残ることだ。だが、俺にとっては勝たせたい奴が勝つことだ」


そういう哲郎の目は、確かにまだ曇ってはいない。

勝負を諦めていない証拠だ。


つまりは、哲郎が囮になり、ジェームズが脱出する時間を稼ぐということだ。


「だ、だがどうする?哲郎が時間稼ぎするにも一人だと限界があるだろ?」


ステージ3となったオリジナルの攻撃は、哲郎が最初に一人で相手をしていた時とは比べ物にならないくらい強化されているだろう。


あの時ですら、せいぜい1分そこらだったのだ。今なら何秒持つか、期待は薄い。


「いや、時間稼ぎは必要ない」

「なんだと⁉︎」

が、そんなジェームズの悩みも吹っ飛ぶくらい自信に満ちた目をして哲郎は即答した。

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