最弱職のイレギュラー

藤也チカ

第1章 前触れのない異世界転移

第1話 プロローグ

「何をしている! 何としても子どもだけは捕らえるのだ! 女は殺しても構わん!」

「はっ!!」


 指揮官の怒号に反応するように声を上げる兵士達は血相を変えて私達を追って来ていた。腕の中に小さな赤ん坊を抱きかかえ、私は体中傷だらけになりながらも兵士達から逃げていた。靴を履いていない事もあって足の方の傷は特に酷く、地面を踏み締めるたびに激痛が奔った。


 兵士達が私の居場所を特定できたという事は、私を逃がしてくれた兵士はもうとっくに捕まっているはず。自白剤でも打たれたのだろう。けれど、彼を責めているわけではない。こうなるのは予想できたはずだ。

 

 ここで捕まる訳にはいかない。何としてもあの場所までいかなければ……。

 痛みに耐えながらも私は目的の場所を目指す。あそこなら、私はともかくこの子の運命を変えることは出来るはず。


「あなただけは、この命に代えても絶対に守り抜いてみせます」


 私はそう言って腕に抱えている生まれて間もない我が子の額にキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る