第31話

ただ・・・おき・・・さい


ん、なんかきこえる。

うるせえな。

いったいだれだよ。

まだねむてぇんだよ。

しずかにしやがれ。


「こら、忠助起きなさい。早く起きないと、ひっぱたくわよ」


まさか、この声は咲夜様?

なんで咲夜様がおれのへやに。

そんなことはあとだ。

早く起きなければ、ひっぱたかれる。


「はい!おきます、おきてます」

ごちん!


忠助がいきなり起きたために、二人のおでこがぶつかった。


「なにすんの」

「いえ、あの・・・」


忠助は一瞬にして考えた。

いま言い訳をするのはまずい。

ここは素直に謝ろう。


「すみませんでした、さくやさま!」


咲夜からの返事がない。

忠助は、下げた頭を静かに上げていった。

すると、咲夜はうつむき一点を見つめていた。

忠助は、咲夜の視線の先を追った。

そこには、布団に山が出来ていた。

まずいと感じた忠助は、すぐさま言い訳をした。


「さくやさま、これはですね、男ならどうしようもない生理現象なんです」


そう忠助が言い終わると同時に、咲夜の叫び声とこぶしが飛んできた。


「なんてもの見せるの、この淫獣!」


捨て台詞を遺して咲夜は部屋を出て行った。


「いってぇ~。しかし、何だったんだ今のは・・・」


障子を見ると、まだ夜明け前のようだった。


「咲夜様はいったい何をしに来たのかわからんが、ねむい。寝なおそう」


忠助が、うとうとし出したころ、どたどたと歩いてくる音がした。

この足音。

咲夜様だ、まちがいない。

それに、なんか怒ってる。


びしゃっ!


勢いよく襖が開いたと思うと、そこには咲夜が仁王立ちしていた。


「なにしてんの、この淫獣」

「へっ?」


なにしてるって、寝てただけなんですけど。

なんでそんなに怒ってるんですか。

それに、淫獣はないでしょ、淫獣は。


「あの~さくやさま」

「なに」

「なんでそんなに、怒っていらっしゃるので」

「わすれたの。きのう稽古つけてくれるって言ったじゃない」


なに、そんなこと俺言ってしまったのか。

酒のせいで、全く覚えてない。

しかし、だとしたら、稽古つけてやらないとしかたがない。

稽古見てあげないと、一日中機嫌悪いからな。

妖魔を倒せるのは、黒巫女である咲夜だが、剣術の腕では忠助の方が上であった。


「あ~、そうでした。今思い出しました。咲夜様、今すぐ準備します」


そして、忠助は勢いよく飛び起きた。

それと同時に咲夜は手で顔を覆う。


「な、なんてもの見せるのよ!」


まさかと思った忠助は、自分の股間を見下ろす。

そこには、寝間着の隙間からロケットの先端がのぞいていた。


「いや~ん、見ないで~!」

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