第15話

「今日は何すんの?」

「ああ、積み沸かしのためのコテを作る。今日も頼むぞ3人とも」

「「はい」」


返事の言い早紀と幸。

それに対して美紀は


「いたたたたた。お、お腹が痛い」


下手な演技だな美紀よ。

そんな見え見えの演技、みんなお見通しじゃぞ。


「そうか。ならば今日はお前はいい。休んでいろ」

「えっ、ほんと?」

「ああ、ほんとだ。お腹痛いなら、薬飲んでさっさと寝ろ」

「わ、わかった。さっさと寝てくる」


何か嫌な予感がしたが、美紀はズル休みに成功した。


「いいんですか、おじさん。お腹痛いなんて、嘘なんですよ」

「ああ、わかってる」

「それじゃなんで?」

「ズル休みには、罰が必要だろ。明日になったら罰をくれてやる」


その日、早紀と幸の頑張りもあり、コテは早く出来上がった。


「今日からは、頑張ってもらうからな美紀」

「まあ、休んでしまったことだし、今日は頑張ろうかな」

「そうか、がんばれ」


そして、積み沸かしが始まった。

1時間ほどすると、休憩に入った。


「夏の鍛錬場は入るものではないですね」

「はは、そうだな」

ごくっごくっごくっ

数馬は、ペットボトルの水を飲み干すと、美紀に言った。


「おい美紀。さっさと水飲んで鍛錬場に入れ」

「えっ、まだ5分も経ってない」

「うるさい。さっさと入れ。早紀ちゃんとさっちゃんは、好きなだけ休んでいいから」

「いいんですか」

「ああ、これは、ずる休みをした美紀への罰だ」


美紀が罰を受けている頃、小夜は次狙う刀を探していた。


「あつい。はやく」

「今探している。急かすんじゃない」


日焼けをするのが嫌な小夜は、日傘に白い帽子にサングラス。

おまけにマスクまでして、怪しさこの上ない恰好をしていた。


「おっ、反応があったぞ」

「どんな刀?」

「まだはっきりとはわからんが、名刀と言える刀には違いないな」

「ふ~ん」


今までも名刀と言えるものだったので、名前を聞くまでは素直に喜べない。


「なんだ、反応が薄いな、小夜よ」

「名刀なのは当たり前。わたしは、はっきりとした名前が聞きたい」


名刀なのは当たり前か。

まあ、名刀を探しているのだからな。

それから10分。

むっ、もしやこれは?


「まだかな~?」


小夜はまた、見つからないのかと催促する。

村正からの返事はない。

何かを察した小夜は、村正が喋ってくるまで、声をかけないことにした。


「小夜、この道をまっすぐ行ってくれ」

「わかった」


小夜は村正の指示に従って歩く。

10分ほど歩くと、村正が声をかけてきた。


「喜べ小夜。安綱があるぞ」

「あの童子切の?」

「そうだ」

「ほんとに」

「嘘を言ってどうする。これは間違いなく、安綱の気配だ」


小夜は、マスクの下の口角を上げていた。

小夜は、積極的に村正に今日の仕事場所を聞く。


「この交差点はどうかな?」

「いや。もう少し先の交差点がいいな」

「わかった」


今日はやけに素直だな。

安綱ということが、そこまで嬉しかったと言う事か。

夜になり、小夜は妖魔を呼び出した。


「ふふ」

「おい小夜。顔がにやけているぞ。もっと緊張感を持て」

「いけないいけない」


妖魔を呼び出した小夜は、近くのビルの上へ飛ぶ。

5分もすると、結界士に黒巫女がやってきた。


「安綱の持ち主は来てる?」

「ああ、来ているぞ。来なかったら、どうなるか分かっているなら来るだろ」


妖魔の封印が終わると、小夜はビルから飛び降りた。


「とおっ!」


とおっ!てお前。

気合が入っているのは分かるが、とおっ!はないだろとおっ!は。

はずいぞ。


「な、なんだ!」


小夜の、とおっ!の掛け声を聞いた黒巫女たちは、辺りを見渡した。

シュタッ!

自分で言うな、自分で。

ほんとに、はずいやつだな。


「きさま!なにものだ!」

「わたしは、悪の黒巫女を倒す者」

「ふふ、わたしが悪だとよく見抜いた。私こそ、ダーク・レディ・シャーマン」


黒巫女だと言いたいのか?

なんか、ノリがいつもとだいぶ違うな。


「黒巫女を倒す者よ。勝負だ!」

「いいだろう。こい、ダーク・レディ・シャーマン」


なんか、ついていけん。

中二病のやり取りが終わると、辺りが冷え着いた雰囲気になった。

雰囲気が変わったな。

コイツ馬鹿だが、結構強いと言う事なのか?

お互いに10mほど離れているが、動こうとはしない。

柄に手をかけたままだ。

5分程たった時、先に仕掛けたのはダーク・レディ・シャーマンのほうだった。

ダーク・レディ・シャーマンは、神速ともいうべきスピードで一気に距離を縮めると、刀を抜き放った。

それを黒巫女を倒す者は迎え撃ち、刀を抜き放った。

黒巫女の顔には傷がついたが、倒れたのはダーク。レディ・シャーマンの方だった。


「いった~。くそ、負けた。もってけ安綱」

「いいの?」

「ああ。あんたみたいのに暴れられても困るしね」

「わかった」


小夜が安綱を拾い上げると、黒巫女は小夜に尋ねてきた。


「ねえ、なんであんなことしたの?」

「あんなこと?」

「新潟で」

「ああ、あれね。黒巫女の仕事を放棄して、わたしから逃げたから。妖魔を退治しない黒巫女なんていらない」

「そっか。私も、そう思う」


黒巫女は誰にも手出しさせないようにすると、小夜を見送った。


「おい小夜よ、なんか機嫌がよさそうだな」

「そ、そんなことないよ。早く帰って安綱手入れしなきゃ」


分かりやすい奴だな。

ホテルに着くと、早速小夜は手入れを始めた。

柄から刀を抜き、油を拭き、打ち粉をし、取り去る。

そして小夜は鑑賞をはじめる。


「腰反りが高い。伏せ心はあまりなし。鍛えは地景、地斑、地沸(じけい、じふ、じにえ)が強くついてる。刃紋は小乱れのなかに小互の目があって、沸づいて

刃中には、砂流しや金筋があって働きが豊富できれい」


機嫌のよい小夜は、いつまでも安綱に見入っていた。

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