第13話

いま、数馬うつ槌の音が響いておる。

数馬は、宮司にして刀匠じゃ。

妖魔を封じるための刀の数が少なくなったので、追加の刀を打っておる。

力の有り余っている美紀は、大槌を振っている。

嫌がっていたが、半強制的に。

早紀と幸は、物珍しいので自分から手伝っている。

コンコン

トンテンカン


コンコンと、数馬が叩く場所を指定する。

トンテンガキっ!


「ちゃんと叩かんか美紀!」

「うっさい!」


美紀の奴は、よくたたく場所を外しておる。

1時間ほどすると、休憩のため4人は鍛錬場から出てきた。


「はあ~、つかれた~」


美紀が背伸びをしていると、

ゴンっ!

「いった~い」


しゃがみ込んだ美紀は、何が起こったのかと見上げてみた。

そこには、拳をふきふきしている数馬がいた。


「なにすんの!」


何が起きたか理解すると美紀は、大きな声を張り上げた。

ゴンっ!

「な、なにすんのよ~」

「おまえが、あまりにも下手くそなのでな、情けなくなってげんこつを喰らわせてしまった。すまん」

「はい、おじさんお水」

「ああ、ありがと」

「すまんで済んだら、警察はいらんっちゅうねん。くそおやじ!」

「はい、美紀もお水」

「ありがと」

「親に向かって、くそとはなんだ、くそとは!この馬鹿娘が!」

「ば、ばかだと!オヤジでも許さんぞ」


このくそ親父と、馬鹿娘のく親子喧嘩を、早紀と幸は冷静にながめていた。

そのころ小夜は、怒っていた。


「黒巫女のくせに、妖魔が出ても知らん顔するなんて。そんな奴らは、刀を握る資格はない。天誅を喰らわせてやる」


小夜の奴、相当怒っているな。

それも仕方ないか。

3日連続で、狙った刀の持ち主が出てこなかったのだからな。


「次の刀はなに?」

「三条宗近だ」

「そう。なら、今夜はそいつの所へ直接いく。結界も張らせない。どんな被害が出てもあいつらのせい。妖魔退治もろくにしない黒巫女は、死ねばいい」


おいおいおい、こわいやつだな。

まあ、妖魔を退治しない黒巫女には、刀を持つ資格はないがな。

その夜、妖魔を召喚してみたが、宗近の持ち主は来なかった。



「かあさん!何故妖魔封印に行かせてはくれなかったのですか?」

「支部長と呼びなさい。それに、行かせなかった理由なんて、考えればすぐにわかるでしょ」

「狐面対策ですか」

「そうよ。あれがいなくなるまでは、名のある刀持ちは妖魔退治に参加させません」


親子が言い合っていると、表で大きな音がした。


「なにごとですか!」

「そ、それがおくさま。狐面が現れました」

「な、なんで」



「この家に、三条宗近はあるはずだ」

「うん」


小夜は、狐面をしたまま、大きな日本家屋のインターホンを押した。


「どなたですか!き、狐面?」


門を開ける気配はない。

その代りに刀を持った男たちが出てきた。

それを見た小夜は、門の前に立つと門を切って破壊した。

小夜は宗近の反応を追う前に、飛び出てきた男たちの体を手を脚を、そして頭を斬り飛ばしていった。

玄関に入ると、4人が斬りかかってきたが、同じように斬り伏せた。

ふすまを開けると、その都度数人が斬りかかってくる。

小夜は全身を血で染めながら、宗近のある奥の座敷へと近づいてゆく。

奥の間に着くと、宗近を持つ黒巫女を睨みつけた。


「な、なぜこんなことを?」

「・・・」


支部長が小夜に問うが、小夜は黒巫女から目を離さない。

いましかないと、支部長は刀を振ろうとしたが、その前に体を縦半分に下から上へ切られてしまった。

開かれた体からは、どさっと内臓が落ちてゆく。


うぷっ!うげ~っ

黒巫女は耐えきれず嘔吐した。


「妖魔を退治しない黒巫女はいらない」


うずくまる黒巫女を見下ろし、小夜は村正を振り下ろし黒巫女の首を撥ねたのだった。

血に染まった小夜は、宗近を拾い上げ、電話をした。


「妖魔と戦わない黒巫女はいらない。そんな奴には、生きる価値はない」


黒巫女の本部にそう伝えると、小夜は電話を切った。

小夜の黒巫女たちに対する見せしめは、幕を閉じた。

あとはこの場を離れるだけ。


「大丈夫か小夜」

「うん。でも、今日は疲れた」


体というより、気疲れしたみたいだな。

こいつなりに黒巫女は認めているのに、こんなことになってしまったことに。


「おい小夜。魔導機動隊がいるがどうする?」

「そんなの知らない。邪魔するやつは斬るだけ」


50人以上の機動隊を斬り伏せて、小夜は何処かへ消えて行った。


小夜は蝋燭の前で宗近をじっと見つめる。

いつもとは違うな。

心を鎮めているのか?

宗近か。

地鉄は、小板目がよくつまって、地沸(じにえ)一面について映り立っているな。

刃紋は細微な沸出来(にえでき)の小乱れ。

それから、やや長めの尖り刃があるか。

棒樋(ぼうひ)は、表裏掻き流し(かきながし)か。

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