ラムネ色の穂

小椋 堯深

1.彼女はそこにいた

 もうずっと、彼女を目にし続けている。夏が来るというのに、彼女の格好は目立ちすぎるのだ。真白な帆布のシャツと、黒いカーディガン、それに黒いスキニーパンツに黒いスニーカー。ついでにメガネも黒、カバンも黒、手に持っている本まで黒。黒、黒、黒。

 いくら初夏とはいえ、日中の気温は20度を優に超える。そして僕らが今いるここは、屋根もなければ椅子もなく、30分に一度のバスを逃せば突っ立ってるほかない、片田舎のバス停だ。

 きっと、日焼けを気にしているのだろう。きっと、代謝が著しく悪い体質なのだろう。きっと、きっと・・・思いつく限りの理由を頭に浮かべるが、どれもピンとこない。彼女の顔をちらと盗み見る。どうやら字の小さい本を読んでいるらしい。こちらの存在も、この気温も、はたまた彼女自身とその本以外は切り抜いたかのようなその立ち姿から、きっと黒い本は面白いのだと推測できる。

 そんな彼女を僕は見ている。

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