第20話 『不動三尊』完成! そして……

 部屋の壁に沿って並べられた仏像。多種多様なそれらの中から、件の仏像を見つけなくてはならない。もう一度、不動明王の説明文を読む。記憶違いがないことを確認する。左右には阿修羅像と千手観音。凄みを帯びた目線に思わず萎縮する。


 私はすぐに行動を開始した。目を凝らし、必死で二つの像を探す。


「あ……!」


 探し始めてすぐ、赤い肌で金剛棒のような武器を持った像を見つけた。これは制吒迦童子子!


「キャスターもついてる!」


 私は像を抱え込むようにして動かしてみる。案の定、少ない力でも動いた。そのままキャスターに頼りながら不動明王の前まで動かす。そして……何だっけ?


「ええっと、確か……」


 こちらから見て、制吒迦童子が左。つまり、今、阿修羅像がある所にこれを置けばいい!


 私は阿修羅像を動かしてみる。外に張り出した腕がいい感じに掴めて動かしやすかった(これにもキャスター付)。そこに制吒迦童子をセットした。


「よしっ! 次!」


 あとは矜羯羅童子! 確か童顔で合掌しながら不動明王を見上げる像。見上げているような像……。


 必死で探すけど、件の像は見つからない。何度かそれらしい像を見つけてセットしてみたが、特に何も起こらなかった。あるいは、先程セットした像が間違っている? もう一度よく見てみるけど、説明文の制吒迦童子に間違いない。じゃあやっぱり、矜羯羅童子もどこかにあるはず。


「どうしよう……」


 多分もうすぐブザーが鳴る。鳴っても出ないで探そうかな? ここにまた入れる保証なんてないから入れた以上、謎は解き明かすべき? でも部屋に留まって何が起こるかわからない。そんなことを考えたら、取り残された土門さんや咲岡さんの安否が気になって、泣きそうになった。


「ねえ? どこにいるの?」


 私は懇願するように部屋の仏像たちに呼びかける。返事はない。そんなことわかってる。頭ではわかっていても、呼びかけずにはいられない。相手は仏様。悩んでいる者あれば、必ず救ってくれる神様。声をあげる度、息苦しくなり大きく息を吸う。


「矜羯羅童子……ねえ? あなたはどこにいるの?」私は続ける。「あなたがいないと私たちは脱出できないの。私は脱出するかわからないけど、出口を目の前にして悩みたいの。だから……お願い。ねえ!」


 部屋を見渡す。仏像、仏像、そして仏像。何百何千の目が、私を嘲笑しているようで。


 あははははははははははははは。あははははははははははははは。


 どうしてそんなに私を嘲るの? 私だって、私だって、みんなと仲良くしたいよ。


「…………え」


 目が合った。何百何千の嘲笑の目の中で、その目だけは私に慈悲深い目を向けていた。その瞬間、体の中に仄かなぬくもりが生まれた。とても気持ちよく、安心するぬくもり。


 その像は童顔で合掌していた。視線は斜め上。まるで何かを見上げているような。目なんて合うわけないのに、見つめ合った感覚が未だに残っていて。


 私はすぐに彼を不動明王の右に配置した。先客の千手観音像は半ば乱雑にどかした。


「完成……?」


 ごごごごごごごごごごごごごご。


 突然、地響きのような音がして。


 見ると、中央の不動明王の左手が動いている。


 天井に向いていた掌が、手首を軸に徐々に回転して、下を向いていき……。


 からーーーーーーーーん!


 何か固いものが床に落ちた。


「あっ! これは!」


 それは丸い形をしたメダルのようなものだった。


 ブーーーーーーーーブーーーーーーーーブーーーーーーーー。


 直後、ブザーが鳴った。


「とにかく! 早く出よう!」


 私はそのメダルを掴んで部屋の出口に向かう。扉から出る前、一瞬振り返る。『薬師如来立像』と目が合う。


「ありがとう」


 私はそれだけ言うとすぐに駆け出した。扉は開けっ放し。返事なんて勿論ない。それでも、部屋の空気が意思をもって私の背中に語りかけてきた。


『気をつけて。必ず生きなさい』


「えっ!?」


 私は足を止めて振り返る。気がつくと書斎にいた。目の前には今にも閉まるAの扉。その先……仏像の間が小さく見える。やがて……。


 Aの扉は完全に閉まった。

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