最終話 最期の一匹

廃村ロフィア



私はミルマがゴールを殺した事を確認してから半壊した建物の影に隠れた。

力を開放し、魔族の気配を探る。

ここに来た時点でも一度確認したけど、間違いはないようね。

もうこの世界に魔族はただ一匹を残して存在しない。

あとは私が死ねば、ミルマが私を殺せば終わる。

ミルマの復讐は果たされる。

私はふと思った。

急に私が姿を消したら、ミルマはどうなるだろうか?


悲しむだろうか?

私を探すだろうか?

幸せに暮していけるだろうか?

ミルマは……

私は……?


そうだ、これは私の願望。

理由を探して自分が生き残ろうとしているだけ。

これからもミルマの傍に、ミルマに必要として欲しくて、生きてても良いって言ってほしいだけ。

何のために今日までやってきた?

今更何を怖気づいている?


ミルマの村や家族を元通りにすることなんて出来ない。

ならせめて自らの手で殺してやると望んだ相手をあの子の、ミルマの手で……。


「クローゼ? どこー!?」


ミルマの声がする。

そろそろ時間のようね。

私は魔力を使い今の、ミルマの知るクローゼという存在に別れを告げる。


「この姿、結構気に入ってたのよね」


首に掛けていたミルマとお揃いのネックレスを外し、私はゴブリンの姿に戻る。

隠れていた建物の影から出て、ミルマの前に姿を現す


「!? ゴブリン……! それにその姿、あの時の……!」


ミルマの目はとても私を、クローゼを見ているとは思えない目を、表情をしている。

私は一言も喋らずただその場に立ち、ミルマを見つめる。


「攻撃してこないの? 償いのつもり?」


ミルマが私に向かって弓を構える。

残った一本の、最後の矢を。


「なんでだろ、殺したい相手なのに、あんなにも殺したかった相手なのに、すっきりしない、なんだか不思議な気分……でも」


ミルマは一度下に向いた視線を再び上げ、私を真っすぐに見た。

そして弓を持つ手に力を籠める。


「私は殺すよ。あなたが最期の一匹なら、復讐は終わる、終わらせる」


ミルマは私がクローゼだと知らない、けれど掛けられる言葉は私の心には苦しいものだった。

苦しくて、悲しくて、痛い。


「これで、これからは……、クローゼと一緒に復讐とは関係なく生きるの……!」


私の、名前――

嬉しかった。

ミルマの未来には私の存在がいる、それだけで生きてて良かったと思えた。

でも、それは実現しない。

だって私は――


「ばいばい、ゴブリン」


ミルマの弓から矢が放たれる。

その矢はゆっくりと、私の方へと、確実に飛んでくる。

勿論避けることも出来た。

いいえ、避けたかった。

今からでもミルマの知るクローゼに戻って謝りたかった。

でもそうしたらミルマは許してしまうだろう、あの子は優しいから……。

だから私はその矢を真っすぐに見返し、その時を待つ。


「ねえ、この旅が終わっても一緒にいようね?」


沢山の約束、守れなくてごめんね。


私の頭に矢が刺さる、少しずつ視界が暗くなり、意識がぼやけていく。

私が死ぬことで世界から魔族という存在は消え、復讐は終わる。

役目は、果たせたわ……。


これで、良かったのよね?




矢が刺さったゴブリンはゆっくりと倒れ、矢を放った少女が一人残る。

こうして一人の少女の復讐が始まったこの場所で、一人の少女の復讐は幕を閉じる。



これは少女達の『復讐』のお話、最後の『一匹』を殺すその日までのお話――



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