第二十六話 希望
「行ってきたよ、お父さん!」
「おお、そうか。どんな様子だった?」
「凄く優しい雰囲気だった! 決して大きな村じゃないけど、みんなで協力して色々な事をしていて、活気に溢れていたよ」
「それは良かった。そこならお父さんも受け入れてもらえるかな?」
「あの村の人達なら大丈夫! 私なんてもう友達が出来たんだよ! 村の女の子でね、すっごく優しいの!」
「よーし、んじゃ、俺も行くかな」
「うん! いこいこ、私が案内するね!」
「ああ、この窮屈で理不尽な世界を変える最初の一歩だ」
フィルメルス城、城門
城ではオーディス、アリュールが国王奪還の為、クローゼから伝えられた地下施設へと向かう直前。
「それでは、行って参りますね」
「必ずや無事国王様を救出し、戻ってまいりますぞ」
「ええ、必ず帰って来るのですわ」
準備を終え、出発しようとするアリュールにクローゼは一丁の銃を渡す。
中立国の外でミルマとアンテを背負って移動していたクローゼを助けた際にアリュールが持っていた物だ。
「これは……。あの時の狙撃銃ですね」
「お守りだと思って持って行ってくれないかしら?」
移動は勿論、細剣での素早い戦闘を得意とするアリュールに多少なりとも重量がある物を持たせるというのは通常で考えればあり得ないだろう。
だが、アリュールは迷う事なくそれを受けとる。
「ありがとうございます。私、お守りとか大好きなんですよ」
そこでアリュールの視線はクローゼの首元へと向く。
「あ、そのネックレス……。どちらで?」
「中立国でミルマに買わされたわ……」
「これ綺麗ですよね! 信頼する二人が付けてると守ってくれるとか! お揃いなんですよ~」
アリュールはとても嬉しそうな顔で。
「それ、作ったの私なんですよ! まさかお二人に付けてもらってるなんて思いもしませんでした」
「え、じゃあ守ってくれるとかいうのはあの店主が考えたんじゃなくて……」
「私です。ふふっ」
横に居るオーディスが珍しいものを見るような表情をしている。
「アリュールがこんなに表情を変えるなんてな。良い仲間を持ったものだ……」
「はいはい、お喋りはこの戦いが終わったらの楽しみにしますわよ」
フィルメルスの一言ではしゃいでいた三人が真面目な表情に戻る。
「失礼しました。では最後に一つだけ。クローゼさん、そのネックレス、絶対に外しちゃダメですよ?」
「??」
真面目な表情でそう言われたクローゼは不思議そうな顔をしながら二人を見送った。
それから半日程経った頃。
国王救出の目的地、地下施設。
オーディスとアリュールはクローゼの提案したルートを通り、魔族との遭遇なく目的地へと着くことが出来ていた。
「あの黒い髪の少女は一体何者だ……。こうも簡単に目的地へと着くとは」
驚くオーディスと隣を歩くアリュール。
二人は施設の入り口、扉に手を掛ける。
「鍵は掛かっていませんね」
「ふむ、不気味ではあるが、進むしかあるまい。行こう」
周囲を警戒しつつ階段を下り目的の最深部へと向かう。
どれほど下っただろうか、入り口すら見えなくなるほど降りても一向に階段が終わる様子が見えない。
異変を感じた二人は一度足を止める。
「ただ深いだけという可能性もあるが、何かおかしいな。階段の錆付き具合や壁の傷、何段降りてもまるっきり同じだ」
「私達の足跡もありません。降りる度にリセットされてるような……」
「ッ!! アリュール、来るぞ!」
「上はお任せを」
上下から襲い掛かるゴブリン達。
決して広くない階段の中でオーディスは大剣を縦に振るう。
その一撃は向かってきた数匹のゴブリンの頭ごと叩き斬る……はずだった。
「ぬう? なんだこのゴブリンは」
上でもアリュールの剣がゴブリンに突き刺さる寸前で弾かれていた。
「これは……! 魔法? オーディス様、一旦退きましょう」
障壁に守られたゴブリン達は二人の攻撃を受けても何事もなく立っている。
「いや、どうやらそうはさせてくれないらしいぞ……」
階段を登らせまいと上から大量の魔族が押し寄せる。
アリュールとオーディスは狭い階段で挟まれるような状況になり、退路を塞がれた。
少しずつ追い込まれる状況でアリュールは考える。
(無限に続く階段と同じ壁。壁……?)
アリュールは壁だと思っていた部分に剣を振ってみる。
その剣撃は何かにぶつかることなく空を切った。
「!! オーディス様、ここに壁なんてありません!」
「ならば!!」
オーディスが力を籠め大剣を横薙ぎに振るう。
大剣は壁に見えた部分に当たることもなく下から来ていたゴブリン達を吹き飛ばす。
アリュールはそれを見て後方へと引き、片足だけを壁の外へと乗せてみる。
「床がありますね」
「先行しよう。急に落ちたらすまんな」
二人は黒く、あるのかないのか分からない道を進む。
少し進んだところで奥に光が見えた。
そこへ足を踏み入れた瞬間、視界が明るくなる。
前に見えるのは青い光を放った鉄格子。
鉄格子の先、目的に人物はそこに居た。
「グロウ国王!」
鎖に繋がれ動けなくされているが、意識はあるようだ。
「オーディス、それにアリュールか!」
オーディスが大剣で鉄格子を破壊しようとするが、やはり障壁に弾かれる。
通ってきた暗い道から先程の魔族達が姿を現す。
「オーディス様、少し時間を稼いで頂けますか?」
「ん? ああ、分かった。追い払ってればいいのだな」
アリュールはクローゼから受けとった銃を鉄格子の方へ構える。
(私の予想通りなら、この銃はこの為に)
最も光の強い部分に銃弾を放つ。
放たれたのは普通の銃弾ではなく青い光を纏った弾だった。
それが当たると同時に鉄格子は破壊され、銃弾も弾けて消える。
アリュールは国王の元へと駆け寄る。
「国王様!」
拘束用に繋がれた鎖を剣で壊し、グロウを解放する。
「助かったよ、ありがとう。色々伝えねばならない事はあるが、今は……」
グロウの視線がオーディスが大剣で何度も追い払っている魔族達へ向く。
「あの魔族達は体を魔力で覆われていて普通の攻撃は通らない。鎖を壊してくれたお蔭で力が使えそうだ。私に任せてくれ」
グロウはアリュールの剣を借り、群がる魔族達の方へと素早く移動する。
「グロウ国王!?」
驚くオーディスよりも前へ、魔族へと剣を振るう。
その剣は青い光を放ち、オーディスやアリュールの攻撃を通さなかった魔族達が一瞬で消し飛ぶ。
信じられないものを見るようなアリュールは国王に問いかける。
「国王様、その力は一体……?」
「説明はする。だが私の事は後だ。一刻も早くゴールを止めなければ!」
三人は地下施設を脱出し、現状を把握したグロウはアクティニディアへと向かう。
急ぎ向かう中でオーディスが言う。
「グロウ国王、ここまで急ぐ理由とは?」
「奴を……。ゴールを殺してはならない! 奴の目的はこの世界への復讐。大量の魔力を抱えている……」
「奴が死んだ時、その魔力は解き放たれこの世界を吹き飛ばす!」
「何!?」
「!?」
アリュールが鉄格子を壊した頃
フィルメルス城、会議室。
「そろそろね」
クローゼが席を立ち、ミルマの方へ視線を向ける。
「ミルマ、行くわよ。この復讐を終わらせましょう」
「え……?」
突然の事に目を丸くしたミルマ。
状況が呑み込めないフィルメルスが口を開く。
「ちょ、急になんですの? 二人の帰りも待たないまま」
「安心して、魔族、そしてゴールはアクティニディアは勿論、マルスプミラにも行かないわ」
立ち上がり動こうとしたクローゼの手を掴み少し大きな声でフィルメルスが言う。
「そういうことを言ってるんじゃないですわ! クローゼ、貴女には一体何が見えてるんですの!? 少しおかしいですわよ!」
冷たい表情のクローゼは視線だけをフィルメルスに向け言い放つ。
「離して」
どう反応していいか分からないミルマと怒ったような表情のフィルメルス。
「離しませんわ」
その言葉を聞いたクローゼは掴まれた手とは逆の手で置いてあった自身の剣を取る。
「離しなさい」
剣に手を掛けたクローゼを見たフィルメルスは悲しさと怒りの混ざった複雑な表情に変わる。
「その剣をわたくしに向けどうするつもりですの?」
「まだ止めると言うのなら……」
続きを言わずとも何をしようとしているのか、またそれが本気だという事が分かったフィルメルスはクローゼの手を離し、会議室の大きなテーブルに手を付きながら立ち上がった。
「残念ですわ。ならわたくしはそれを力づくで止めなければなりませんわね」
「片足が満足に動かないその状態で何の冗談かしら」
「今の貴女には丁度良いハンデですわ」
睨み合う二人。
「時間がないのよ。ならお望み通り……」
クローゼが剣を振り上げた時、隣の席に居たミルマが立ち上がり、クローゼの頬を思いっきり叩く。
「おかしいよ。こんなの私の知ってるクローゼじゃない。今自分が何を言って、何をしようとしてるか分かってる!?」
振り上げた剣を戻し、無言で出口へ向かうクローゼ。
会議室の出口に差し掛かった所で足を止め後ろ向きのまま言う。
「ねえ、ミルマは今でもあの日の復讐を果たしたい?」
「え……?」
「復讐を果たしたいなら私に着いてきて。忘れられるなら……その方がいいわ」
クローゼはそのまま立ち去る。
それを見たフィルメルスがミルマに言葉を掛ける。
「わたくしにはその復讐がどれほど重要なことかわかりませんわ。選ぶのはミルマさんですの」
「フィルメルスさん、今のクローゼの」
「わたくしの事は気にしないでくださいませ。分かってますわ、クローゼが本当はあんな人じゃないって」
「あ……」
言いたい事を言うまでもなく理解してくれた事に嬉しそうなミルマ。
「行きたいのでしょう? あの一人で何でも背負おうとするお馬鹿さんを連れて戻ってきてくださいな。その時は……」
一拍置いてフィルメルスは笑顔で言う。
「一発殴ってやりますわ」
「ありがとうございます!」
ミルマはクローゼを追い会議室を出て走り出す。
門を出た所で追いつき、後ろから声を掛ける。
「クローゼ!!」
振りかえるクローゼ。
「ミルマ……」
「復讐、やり遂げるよ」
「そう……」
「今は聞かないから、復讐が終わったらさっきの事、ちゃんと説明するって約束してね」
「約束……するわ」
「うん! じゃあ行こう!」
(このままミルマが追って来ない方が良かった?)
クローゼはミルマに聞こえないくらいの小さな声で自分に言い聞かせるように呟く。
「違う、そんなのはただ自分が楽になりたいだけのワガママね。それに、この結末を目指したのは、望んだのは他の誰でもなく私」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないわ。行きましょう」
二人は歩き出す。
目的を、復讐を終わらせる為に。
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