「今宵の空へ鐘はなく」アリスパロ番外編  ~白執事を追いかけて~

虎渓理紗

No,1 Welcome to the fantasy world.

 深い森の奥の奥、白兎を追いかけて辿り着いたその国は不思議な、不思議な、不思議の国。迷い込んだ客人はと呼ばれ、老若男女問わず、誰でもそうお呼びいたします。


「なにこれ」

「リアヴァレトの首都フェニックス北西部にできたカフェのチラシでございます、デファンス皇女様」

 執事がカップに紅茶を注いでいる。デファンスはテーブルに置かれたチラシを見て自分の執事――ロドルに問いかけた。後ろで結ぶくらい男の髪型としては長い黒髪と、左眼に傷がある黒い瞳が特徴の、少年のような見た目だが、私の父である魔王ゼーレの側近にして、母メーアの使い魔。そして私の執事。

 性格としては少し反抗的。

「なかなか面白そう、といえば面白そうです。魔王城にまで広告を入れるとはそれ程自信がおありなのでしょう」

 彼の声は少し楽しそうに聞こえた。

 ここはリアヴァレトの中心部にそびえる魔王城の客間である。今はお客がいないので、デファンスとロドルのみ。

「アリスって?」

「カポデリスの方で有名な童話のことですね。確か作者はルイス・キャロル。数学者で最近では小説家としても活躍しているそうです」

 ロドルが森羅万象、なんでも知っているのは別に驚くことでもない。それよりも気になったのは――。

「ファンタジー小説か」

「そうですね。空想世界、というのが隣国にはもう遠いものの存在だということです」

 リアヴァレトはほぼ魔物の棲む国である。魔法技術者の技術力は周辺の国々では一番だろう。ゆえに気になること。

「そんなファンタジーいっぱいのリアヴァレトにわざわざファンタジー小説を模したお店を構えた理由」

「気になりますか?」

 ロドルはにやりと笑いながらカップを置いた。

「ロドル! 今から出かけるわよ!」

「はい、どちらへ?」

 知っているだろうに聞くのは彼のマニュアルパターンだ。

「貴方も付いてきてくれるでしょう?」

「はい、皇女様がお望みならば」

 ロドルはいつものようにお辞儀をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る