第5話
鮮やかな、緑色。
濃い緑が視覚全てを占める。
緑の葉の匂い。
土苔の青臭い湿った匂い。
先ず最初に視覚からその光景と共に鼻にきた。
古い樹齢の木々の森。
周りをぐるりと見渡せば、鬱蒼とした草、苔むした土や岩肌。
森の獣や虫が潜んでいそうな繁み。
頭上を仰ぐと、枝枝がしなやかに伸びやかに重なり、緑濃い葉がよく繁り、鳥が囀ずる声がどこかしらからか聴こえる。
どこまでも鮮やかな緑が濃ゆく、奥深い人の手がはいっていない原生の森を形成しているその手前付近に今、俺とヴァルスはいる。
テレビで観る白神山地みたいな、ジブ○の犬神や木霊(コダマ)が出てきそうな感じで、内心、ワクワクする。
けど、虫は嫌だ。
今から森に入ろうとしている俺たち。
後ろに広がるのが膝下まで背が高い草が広がる草原で、その向こうには、険しい山々が望める。
俺たちはあれから一旦南下し、この世界の南半球から改めて少しずつ少しずつ北上しては地上に降り、この世界固有の珍しい植物や、鉱石、生き物を採集、確認し、俺が独自に創ったカード化の魔法でアイテムの情報をカードにし、アイテム図鑑(カードファイル)にファイリングしている。
そうすれば嵩張らないし、生物も無闇に殺したり捕獲したりしなくていい。
コレクターとしては、カードを集める事がめちゃめちゃ楽しい!
装飾品や武器、魔法の類いもいれれば
数億以上の規模のカード枚数になりそうだから、収集家の心を鷲掴みだ。
しかもカード化を解除すれば物質可も可能な魔法にした。
オリジナル魔法万能!!俺無敵!!
「無敵なのは我等だけです。主」
油断大敵ですよ、とヴァルスに注意された。
オカン。ごめんよ。
「・・・・・」
睨まれた。
解せぬ。
子どもたちは天空の城に留守番。
駄々をこねて引っ付いて離れなくなるかと思ったが、意外にも素直に頷いて待っててくれてるから、逆に寂しい。
身体的に見るとまだ小さく、3、4歳くらいにしか見えないし、舌ったらずなしゃべりだから余計に庇護欲がわくのだろう。
見守りAIゴーレムを3体配置してるから、まぁ大丈夫だろうが。
ちなみに留守の間、どうしてるのか気になるから、あちこちある隠しカメラでビデオを録っていて、こっそり観て和んでは密かな楽しみになってる。
ゲイルは流石に男の子で、警戒心が強いながらもよく食べるから回復も早く、よく動くようになり、足腰の筋肉がついてきたおかげか庭を元気に走りまわったり、でもよく転ぶが。
木に登ろうとして止められたりとやんちゃだ。
ヴァルスから城下町で買ってもらった小さな木剣を振りまわしたりしてる。
でもまだ重そうだ。
すぐ腕が疲れてだらーんとしてる様は可愛い!
エクラはよくいろんな絵本を見て、字を覚えようとしてるみたい。
たまに料理の本をこっそり見ながら手に力を入れて、何かしら鼻息をふんふんさせ、うんうん頷いてるから、いつか料理を作ってくれるのかも。
女の子だねぇ。
俺たちは知らないふりを。
・・・ただ『美味しそう』だとか、『いつかこれを食べたい』とか、思ってるだけだとしたら・・・
俺の希望は粉砕?
いやいや、エクラは食いしん坊じゃないゾ。
いつか心優しいエクラは、俺たちに料理を
「主。見守るだけです」
「・・・・」
「見守るだけです」
夢ぐらい見たって!
「おしつけは、よくない。
身勝手な願望のおしつけは、よくない」
はぁい。オカン
「・・・・・・」
深い溜息を吐かれた。
◇◇◇
雑草なんてこの世にはない。
全てのものに名は必ずあり、それはこの星の創世神が名付けた正式なもの。
それを知らない、知り得ない人間は自分たち人間間で通じる名前をつけているが。
今は楢の木に似た【ザルートレス】という大木の木肌に寄生してる、食用可の茸【トレス茸】をカード化したところだ。
トレーディングカードのようなカードを手にし、写真の裏には神がつけた真名と人間がつけた通名と、生育など細やかな情報が記載されてるのを見ながらニヤニヤする。
レア度表記はない。
「ん?」
ごり、っと足裏に踏んだ固い感触に目をやる。
木の根元のあちこちに、親指大のドングリ【ザルートレス】の実がけっこう落ちてるのを見て。
「お。これでドングリのコマとか笛とか作ってやろう」
ドングリを拾い、指先でグリグリもて遊びながらにやける。
昔、私が小学校低学年の時、いつもぼっちだった私を見かねたのか、近所のお姉さん姉妹がこっそり教えてくれた遊び。
数少ない、幼い頃の楽しかった思い出だ。
凧もそういや学校工作の時間に竹ひごと凧ヒモ買って用意して作ったな。
教材だったし、安かったからかあの人たちにしてはすんなり買ってもらえたのだろうと思う。
あの子たちにも、自分で作って遊ぶ楽しさを教えてあげたい。
草原の向こう。
馬車が余裕ですれ違えるくらいの広さの、轍のある街道が細長く続いてるが、そっちは無視。
森の付近にはまだカード化してない植生がある。
「主」
「おう。行くか」
まだ遠いが、馬車が3台、街道を来る気配を感知し、さっさと森へ身を隠す。
人間に見られれば厄介だ。
まだ、俺はこの世界の大人に不信感いっぱいだから。
接触したくない。
精神的な疲れることをしたくない。
たとえこの先の道で盗賊団が潜んでいようと。
俺は、知ったこっちゃない。
ドドオオォーン!!!!
バリバリバリバリ・・・ッ
「・・・・・」
晴天なのに、雷が突然落ちるって異世界怖いわぁ。
「主。山火事が」
「・・・・・・」
山の天気は変わりやすいってよく聞くしなぁ。
局部的なゲリラ雷雨だなぁ。
゛運よく゛俺たちは濡れてない。
「見捨てられないのが主らしい」と、ヴァルスに苦笑された。
「どうせ偽善者で偽悪者だよ、俺は」
口を尖らせ、拗ねてみた。
起伏のある森の中を行く。
平らな場所なんてない、大自然に触れる。
この森は奥に行くにつれ、瘴気が淀み溜まり、強い魔獣が棲む。
素材を求めて冒険者たちが森の浅い場所をうろついている。
そう、この世界にはラノベでよくある冒険者ギルドがある!
ロマンだ!定番だ!新人潰しいるかな?
「そんなに気になるなら一度街に入りますか?」
「・・・また今度」
ヘタレですね、主
「ムッ」
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