異なる世界の昊の下、哭きたくなるけど生きていく

天野

第1話

(・・・マジでキモい・・・)


うへぇと思う。


草木が何もない、だだっ広い果てのないデコボコした赤茶色の砂漠を、ギラギラした太陽光線が降り注ぐ中で、汗1つかくことなく、どんなに歩いても疲れることなく、ただただ気持ち的にへきへきしながら、目元以外フードや布マスクで隠してはいるが、18歳くらいの輪郭の整った美しく凛凛しい顔つきの美青年が1人、砂地に足をとられることなく普通に歩いていた。


ベージュ色の革を鞣した外套のフードを目深にかぶっているが、長めの銀青色の前髪が、さらりと瑠璃色した切れ長の目にかかってる。


ネックウォーマーみたいな布を鼻まで引き上げて隠してはいるが、エルフのようでいて弱々しくもない凛凛しく美しい顔立ちの輪郭は、見る者をハッっと惹きつけるだろう。



遠くに何本もそびえ立つ砂の塔は、空高くブンブン飛んでる無数の、゛地球ではありえない゛人間よりもデカイ肉食の羽虫の巣。


時々、「キシャーッ!」「カチカチカチカチカチカチ」と、威嚇や歯を鳴らすのが聞こえる。


(ほんと、マジでキショイ。

キン○ョールがあればシューッって無意識にやるね。

効くはずないけど)


『殲滅しますか?』



俺の心の愚痴に直ぐ様反応し、脳内に機械的な抑揚のない声が、私に問いかけてきた。



(いや、襲ってきたらね~)



苦笑しつつ、心の中で返した。


むやみやたらな殺生はあかんよ。と。



私の頭がへんになったんじゃない。

二重人格でもない。


自問自答じゃなく、ラノベでよくあるような、私の能力神の知識から派生した《ナビゲーター》という私のスキルの1つ、なのだ。


しかも《隠密》《匂い消し》スキルで姿を消し、歩いてるから襲われない。



けど旅慣れていないし、憧れていたドラク○の旅人のような服装に、腰の革ベルトに下げた剣の重さを確かめた。


ザリッっと、長年血を吸い続け赤茶色になったような砂地を踏みしめる。

何かの骨が砕けてあちらこちら散らばってるから、まぁ、血、なんだろう。

あの羽虫やそれ以外の生物にやられた生き物がいるみたい。


と、いうことは、この砂漠にも普通の動物がいるのだろうか。


『生命反応索敵。現在地より南東3キロ先、地中5メートルに生命反応あり。

名称・《花虫》。《ワーム》です』


(うわ。《花虫》とか《ワーム》って、巨大なヒルみたいなミミズみたいな化けもんじゃん!

地中にいんの!?)


丸い口にビッシリと歯が生えた巨大なミミズみたいなワームが出た漫画を思い出す。

あのイメージと一緒らしい。


下を向けば、厚く重ねた革を足に包み、堅い平革のヒモで、足先や足首をぐるっっと巻きつけて固定して結んでる、地球では見たことないブーツが目に入り、なんだかなぁ、と思う。


◇◇◇


こんなことになる前。


私はラノベや漫画好きな、夫も高1の息子もいる、普通の48歳のパート主婦で、ホテル清掃の仕事が昼過ぎに終わり、近所のスーパーにそのまま車で夕飯の買い物をした帰り。


一瞬にも満たなかった。


意識がプツリと途切れたから。


気がつけば、何もない、砂漠にぽつんと裸で倒れていた。


しかも、男でも女でもない、知らない自分じゃない十代の若い体になって。


恥ずかしいし、どういうことなのかと、もうパニックだ。



『精神錯乱状態を確認。

精神異常耐性をアクティブ化します。

原因究明。

異界同士の接触によるクラップ出現。

巻き込まれ圧死。

異界と接触したことにより魂と精神が引力により渡界後、現異界の作成管理精神体により、空気中の魔素及び神力にて魂と精神を内包する新規の肉体を構築作成されました。

無防備体勢による精神異常の原因確認。

深層意識下の記憶確認。

現環境に合った適切な服装と備品を作製。装着します』


この時初めて、頭の中で、抑揚のない第3者の声が響いた。

と同時に。

私の体を光の微粒子が包み、あっという間に今の服装になったことで、驚き過ぎて冷静になった。


もしや、と。


「・・・・・これは異世界・・・・転、移・・・??いや転性?マジか?」


ポカーンと口をあけて立ち尽くした・・・・・。


それからは、脳内ナビと問答タイム。

憧れの魔法も想う通りに使えるし、結果、受けいれるしかないしで、新たな人間(?)として生きていくしかないわけで。

一先ず、目的として人間が暮らす街に向かって歩いてる。


◇◇◇


陽が地平線近くになり、陽が沈む前にと、歩くのをやめた。


「《天幕作製》」


キャラバンや遊牧民の住居をイメージした十人くらい余裕で入る乳白色のテントを出現させる。


自動的に脆い砂地をものともせず、地中深くに杭が打ちこまれ固定。


息をするように自然にどうすればいいか、魔法を使えるようになった。


「天幕の中と周り、《隠蔽》《物理・魔法結界》《匂い・気配遮断》《魔物・害獣避け》《悪意索敵警報》あー・・・あと・・・《空気中温度常時快適化》ね」

『了解。完了』


脳内ナビに思いつくまま指示し、後はないかな、と思案する。


近辺には羽虫や花虫、蠍や蜘蛛に似た毒虫もいるし、この世界は地球に近い異界の星だからか地球に似た進化や文化らしく、似たような狼や熊、盗賊もいる。

理不尽な目にあってる奴隷も亜人も魔人もいるらしい。


ちなみに勇者や魔王はいない。


魔法使いもいるから突然攻撃されたらたまったもんじゃない。


まぁ、この体は神様みたいなエネルギー体という存在が創ったからか、無敵、らしいけど、攻撃されるのは、やっぱ嫌じゃん。


この星の神代と魔、精霊と人とが混沌とした創世記の初期の頃に、転生した地球人が1人いたらしく、その人は前世イギリス人だったとか。


日本人じゃなかったのは残念。


その人は精霊に愛され、5歳の時に前世の記憶を夢に見るようになり、《精霊の愛し子》として人心を掌握し、少しずつ地球の知識を広め、村を発展させ街になり、国を作り、国王になったけど、病気で亡くなったと脳内ナビが話してくれた。

その国は今も精霊が守護する聖国として現存してるそう。


いつか行ってみたいな。



◇◇◇


テントの外。

入口そばに瓶を置き、その中に冷たい水をたっぷりと。

柄杓で水をすくって軽く手を洗い、顔を洗い、口の中をすすいだ。

結界で体周りを保護していたとはいえ、風で巻き上がる砂の中を歩いていたから、気持ちが砂利つくというか。

やらないと落ち着かない清潔大好きな日本人気質というか。


本当ならお風呂に入りたい。


『浴槽を作製しますか?』


(いや、作れるんかい!?

何でもアリやね!今は落ち着かないから作らなくていいよ!)


家じゃないと落ち着かない。

こんな砂漠の真ん中で入浴は。


中に絨毯を出現。クッションを3つ置く。

カンテラも置いて灯りをともすと、クッションを背中にあて座る。


食べなくても寝なくてもいい体になったけど、暇だから、木製カップにアイスティーを入れてチビチビ飲む。



◇◇◇


「・・・・・」

(1人はやっぱ寂しいな・・・・・)


『視覚的な話し相手が必要ですか?』


脳内ナビが即座に訊いてきた。


「んー・・・」


(やっぱね・・・・。ナビが応えてくれるから、なんとか寂しさが紛れるけど、実質1人だとやっぱ寂しいね。

こんな風に静かにゆったりとした時間だと、地球のこと、家族のこと、考えるし)


どうしようもないけど。


空間に圧縮されて一瞬で圧死したから、車ごと何も残ってない死だという。


行方不明になった。ということ。


旦那や子供のことを想うと、泣きたくなる。

息子の卒業式。成人式。結婚。孫。


考えてしまう。

未練たらたらだ。

絶対息子の嫁になる人とは仲良くしたかったし。


(考えないようにしてたのに、やっぱ夜になると、駄目だね)



『精神脆弱を確認。

原因を索敵。

マスターの補助擬似生命体作製を開始』


「えッ?」


私の体がいきなり光り、その粒子が目の前の空中に向かって伸びて光の粒子が集まってく。


『マスターの肉体構成物質極小搾取。

深層意識下イメージ確認。

構築完了。』


「はッ?」

ポカーンと開いた口がしまらない。


集まった光の粒子の塊が、霧散したら、理想的なプロレスラーみたいなガッシリ筋肉質の、日焼けした小麦色の少し肌黒な体に、黒に近い濃紺の短髪、黄色やオレンジが混ざったような夕陽にも似た不思議で綺麗な琥珀色の切れ長の目の二十代前半くらいの美青年が立ってた。


昔、ゲームで作ったアバターそっくり。



「マスター。名前をつけてください」

『マスター。名前をつけてください』


脳内ナビと同時に二人?に言われた私はまだ固まってる。



「マスター?名前をつけてください」

『マスター?名前をつけてください』




「ふっ!!」

『精神高揚を確認。原因索敵』


「服を着ろおぉーっ!!!」


原因は裸じゃ!!ボケがあっ!!



(ってゆーか、私の許可くらいとれや!!

いきなり相棒作んなや!!

しかもしっかりご立派な逸物ぶら下げてるし!!

嫌みか!男でも女でもない私に対する嫌みか!?)


副音声ばりにかぶせて言ってくる脳内ナビの勝手な判断及び暴走に、痛くならない頭が痛んできた気がした。

頭をかかえたくなるよ。いや、マジで!


◇◇◇


「マスター。現在地より東7キロ。砂狼16匹に追われている人間32人、砂蜥蜴6匹を確認。」

「ん。ん?砂蜥蜴?」


脳内ナビと相棒の青年との同時音声は、青年1人に統合してもらった現在は、日中ザッザッと二人で砂漠を歩いていて、《ヴァルス》と命名した青年が報告してきた。


「砂蜥蜴は砂漠に特化した南部地方居住の人間の移動手段に用いている、平均7メートルある草食動物です。

足も早く、皮膚も厚く、砂狼の牙や爪も効きません。

1匹およそ4~5人騎乗可能です」

「砂狼が歯がたたないなら何で襲われて逃げてんの?」

「砂狼の数が多く、連携して騎乗している人間を、現在は主に子供二人を標的にし襲っているようです」


「はっ?子供?子供がいるの!?」

「はい。索敵確認。身体年齢6歳女児と7歳男児です。

首に鉄輪の魔法具を装着しており、魔法の鎖が前から2匹目の砂蜥蜴に騎乗している男の体に伸びています。その男の奴隷です」

(奴隷・・・・子供の、奴隷・・・・)

私は躊躇した。


助けたい。


でも、正規に契約している奴隷なら、余計なお世話だ。

偽善者だ。


「騒ぎを感知した花虫が3匹、砂中で動きました。

砂狼や砂蜥蜴、人間関係なく襲い始めました。

同乗者でそばにいた人間が子供二人をつき落とし、囮にし逃走しました」

なんてこと!!


「!子供二人、結界張って!守って!」

「物理・魔法結界発動」

「隠蔽も!」

「隠蔽発動。二人の意識、消失。気を失いました。

花虫及び砂狼たちは素通りしました」


「はぁ・・・・よかった・・・・」

(子供を囮にするような人間

たちなら見捨てる罪悪感いらないね)

「はい」

脳内ナビが喋らなくなった代わりにこの相棒が応えてくれるけど、私の心の声にまで応えるのはなぁ。と苦笑いし、脱力した。


焦った。安心した。

子供たちを助けられたから。


「奴隷の主の男含めた30人の人間、及び砂蜥蜴6匹、砂狼12匹、花虫に捕食され死亡。

4匹の砂狼、現在逃走中。

そのまま花虫が追いかけて東へ移動しています」


「そっか。さて、子供たちを保護しにいこうか」


立ち上がった。

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