2=ムネナシのヒト


 「しっかし、アレだゼ! これもウンテイってんだよなぁ!?」

 「それをいうなら運命ですよ、バカシラさま」


 やたら声のでかい少女を、うんざりって感じで別の女子がなだめる。

 少女は、着崩した黒に赤いもみじ柄のハッピ、気休めチックなサラシ。

 それ以外、ほぼ裸も同じ。


 「本当にバカシラはバカですね。バカバカです」


 女子は、青くてシックな着物を着込み、白い帯に黒いカタナを差している。


 「あっ! バカって言ったやつがバカなんだゼ!」

 「いえ、バカシラは単なるバカじゃなくて、バカバカです」

 「えっ……それって何がちがうの……」

 「バカはひとつならば、単にバカという意味ですが、バカバカならば、割と好ましいバカという意味です」

 「……なるほど」


 コスプレみたいな恰好して、ほの暗い洞窟の中、その二人はコントをしていた。

 縛られた僕の目の前で。かれこれ1時間くらいか。ずっとこの調子。


 「そっかぁ……言葉ってオレサマが考える以上にむずかしんだなぁ……」

 「そうでしょうね」

 「感動したゼ!」


 こちとら、女子と同じ空間にいるだけでキツイってのに。

 勘弁してくれ。


 「あ……あの……」

 「んん? なんだよ、ムネナシ。オメーサマも共感したのかぁ?」

 「いや、その、違くて。えっと……そろそろ縄をほどいてほしいかなぁって」


 恐怖にひきつりそうになりながら、必死に笑顔を作る。


 「なんだよ。縄がキツイの?」

 「そっ……それもあるけど、疲れてるし。吐きそうだし。自由にして? ね?」

 「そーかそーか! そーだな! 同じムネナシ同士だ。頼みを聞いてやらん事もねーってヤツだゼ!」


 バカシラって少女は、にぃって笑顔を僕に返す。


 「オレサマは天下に名を成す大盗賊、トオカ・ヒスイってんだゼ。よろしく、ムネナシ」

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