光るもの。
彼女はスーパーでお寿司のパックとからあげを買って帰路に着いた。
「悔しいですか?
目の前に大好物があるのに食べれないなんて悪い事はするものじゃないですね」
彼女は小悪魔のような表情でニヤニヤ笑っている。
歌の一件は俺と熊井さんの距離を大きく縮めた。
冗談も言えるような仲というのは友人だろうが恋人だろうが心地のいいものである。
もし俺が生きていれば良い雰囲気のカップルのように周りからは見えるのではないだろうか。
ちなみに俺はカップルの観察眼だけは超一流の自負がある。
二十二年間怨念を込めて観察してきた俺の観察眼を舐めてもらっては困る。
そんな俺から見てもこの雰囲気はいいものだと思えた。
もし生きてる時にこういう時間を過ごせていたのであれば今のような状態にはならなかったかもしれない。
しかし死んでからでもこういう時間を過ごせたのはラッキーだったと思おう。
そして俺には恋人がいたことがないので冗談が言い合える恋人の関係は心地いいかどうかは知らない。
そんな事を思っているうちに彼女の家に着いた。
◇
「末松さんはネタは何がすきなんですか?」
彼女は先程スーパーで買ったものの準備をしながら聞いてきた。
「そうですね。アジとか光り物が好きだったりするんです。ちょっと変わってるかもしれませんが。」
マグロやサーモンなどの皆が大好きなものも、もちろん好きだが何故か俺はサバとかアジとかコハダとかそういうものが好きだった。
回転寿司ではあまり人気がないのかあまり回ってないのが残念だったりする。
「あんまり、好きなもので光り物を一番に挙げてる人はたしかに見ませんね。
でもこの中にはいるみたいです」
彼女が選んできたお寿司パックの中にはしっかりアジがいた。
彼女はそのアジとイカを皿に移し、醤油を入れた小皿とからあげと割り箸を俺の前に置いた。
「たとえ食べれなくてもこういうのは雰囲気が大事なんです。
イカはオマケです!特別ですよ!
私はイカがほんとは好きなので。
さあ!食べましょう!いただきます!」
彼女は笑顔で美味しそうにマグロを頬張る。
「んー!美味しい!」
俺も箸を持つフリをしてアジに手をのばす。
「んー!美味しいですね!」
「末松さんもそう思いますか!
このスーパーのお寿司新鮮でなかなか美味しいのです!」
楽しい夕食の時間。
こんな楽しい夕食の時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。
彼女はお寿司のネタではイカとかタコが好きらしい。
お互いちょっと変わっているという話もした。
二人で他愛のない話で盛り上がる。
大きく距離の縮まった分、昔から友達だったかのようにフランクに話を出来た。
とても充実して楽しい時はあっという間に過ぎていく。
「ごちそうさまでした!」
こんな日常がいつまでも続けばいいのにな。
落ち着いた日常。
でもそこにある幸せ。
こんなに彼女はしてくれているのに俺は彼女に何もしてあげることが出来ない。
何か無いかと探してみるがお生憎、幽霊かつブサメン童貞の俺にはなにも出来ることが見当たらなかった。
彼女は夕食の片付けをしながら鼻歌を歌っていた。
この歌がもっといろんな人の元に届くようには出来ないものだろうか。
そんな事を思いながらそう思いながら水曜日が終わった。
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