心からありがとう ~大切な想いと切ない想いと~ 

武 頼庵(藤谷 K介)

出会いは事故から

「 ちょっと聞いてるの? 」

「 ああ? 聞こえてるよ!! 」


 一生懸命に自転車をこぐ俺の後ろに乗って文句を言ってるやつがいた。

 すぐそこから聞こえる声はいつも怒ってるような笑ってるような、楽しんでるような…そんな声だった。


 そんなヤツを俺は好きだった。

 顔を合わせるとケンカばかりだったけど本当は心の底から大好きだったんだ。


 気持ちは伝えられないまま時間だけが経って行った。

 高校生活最後の桜が咲いたとき、もう俺の自転車の後ろからは声が聞こえなくなっていた。


 あのはもういない。


 そう…。







 高校受験が終わって合格発表を見に行った俺は突然目の前が真っ赤に染まった。

 それからはもう暗くなる視界に近づいてくる声が聞こえるくらいで…意識が飛んだ。


 俺はどうやら車に轢かれて重傷を負ったらしい。

 近くにいた女子生徒が介抱してくれたり救急車を呼んでくれたり一生懸命に動いてくれたらしい。


 俺はその子の名前も知らない…。


 同じ学校に行くことだけはなんとなくわかるんだ。あの辺りには高校はそこにしかないから。それに合格発表に来てたって事は同じ学年か…。


 まぁ、例え逢ったとしても俺には分かるはずもないんだけど。


 学校に合格してると分かっても素直には喜べなかった。

 何しろ気付いたのが事故から一週間後。その話を聞いたのはそれから3日経ってからだったから。それにこの体じゃ学校どころじゃないし。


 これから長いリハビリを思うと、学校なんて遠い世界に感じる。


 結局、病院から退院するまで二カ月もかかった。

 リハビリをさぼっていたおかげで体力の回復と筋力の回復に時間がかかっただけだけど。


 今日が学校初日。


 誰もが不思議そうな顔して俺を見る。

 それはそうだ二カ月もここの生徒だったのに顔を出したことなどないのだから。転校生? なんて声まで聞こえてくるんだから苦笑いするしかない。


「 滝川君… ? 」

「 ? 」


 突然声を掛けられた。

 しかも女子生徒に。


 初登校だし職員室に挨拶だけはしておけと両親に言われ、その実行後の出来事。


「 ゴメン。え~と…誰? 」

「 あ、そうだね!! 初めて会うんだからわからないよね 」


 そういった彼女も何故か下を向いたまま黙り込んでしまう。

 実をいうと声を掛けられた時凄く嬉しかった。何しろこの娘こは俺の好みにストライクど真ん中だったから。

 でも俺は顔も名前も知らない。

 だから何も言えなかった。


「 身体…もう大丈夫なんだ… 」

「 え!? あ、うん。この通り大丈夫だよ 」


 身体の事を知ってるという事は…クラスメイトかな? 


「 ごめんなさい。私は遠野七海とおのななみって言います。滝川君と同じ一年生で、同じクラスです 」

「 あ、ああ、そうかそれじゃ知っててもおかしくないよね。改めて俺は滝川勇樹です。今日が初登校だから知ってる人がいるのは良かった。よろしく頼むよ 」

「 ふふふ…。こちらこそよろしくね 」


 笑った顔も可愛いな…。



 これが俺と七海のの出会いだった。

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