第9話 紅色の夜②

戦闘奴隷の起源は戦争奴隷だったと言われている。


この国がまだ戦争をしていた頃に作られた制度で、その当初奴隷たちは使い捨ての駒であったが、いつからか傭兵のように扱われるようになり、今では貴族たちの道楽の道具となっている。


潤沢な金と時間をかけて育て上げられた屈強な奴隷たちを、定期的に開催される交流試合で争わせ、その結果で貴族内での順列が決まるという、平民の命を弄ぶ究極の道楽。


伯爵家の長子に生まれた緑は、この戦闘奴隷という制度が嫌いだった。


だが、あることを条件に、領地内で最大級の規模の奴隷宿舎の看守長を引き受けたのだ。


前任の看守長は彼から言わせれば無能であった。


仕事の内容としては、金銭面の対応と奴隷の管理のみであったのだが、無駄な出費が多いかと思えば必要なところに使われていない。奴隷の管理に関しては、体調の管理や褒賞を行っていた実績がほぼなく、身辺調査も当人からの聞き取りのみとあまりにずさんだった。


そんな細々とした尻拭いをしていた時に気になったのが蒼の存在だった。


貧困街出身で親はなく、金に困り自らの身売りをしたということになっていたが、その記載とは裏腹に教養も学もそれなりにあるように見えた。


前任者が何度か外出届を受理していたので、親が遊ぶ金欲しさに息子を売り飛ばしそれを恥じて嘘をついている可能性を考えたが、前回の外出から戻ってきた彼を見てそれが間違っていたことに気づく。


最初に違和感に気づいたのは笑顔だった。


蒼の笑顔は取って付けたような愛想笑いだったのだが、戻って来た後は、それが面を張り付けたかのような一層不自然な表情に変わったのだ。


それから目を配るようにしているとやはり不自然なところだらけで、念のため出自を洗わせたところ紅の存在が浮上した。


プレッシャーをかけて動きを見るつもりで呼び出したのだが、まさかあんなにも分かりやすい反応をしてくれるとは思わなかった。


あまりにも面白かったものだから、自室に入れ、さてどう遊んでやろうかと考えていた時だった。


ぷるぷる震えていた小娘が、突然吠えたかと思うと、「くそが!」と睨み付けてきたのだ。


その豹変ぶりにはさすがに目を見張った。


権力者への媚び方など相場が決まっており、こういう状況になった場合、大抵身体を使って懐柔してくるものだ。


現にこの宿舎に収監されている者の中にも、他より優遇されたいからという理由で身体を差し出そうとしてきた者がいる。


てっきり今回もそうであろうと踏んでいたが、予想を覆しこの小娘は歯向かう気でいるらしい。


(面白い)


自然と頬がゆるむ。嗜虐心がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。

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