幕間
帝都防衛術式
帝都には秘密がある。
それを知るのは皇族と一部の政府の高官、軍部上層部。そして、この街の開発にあたっていた極少数の人間のみ。彼らだけが、この街の本当の姿を知っている。
帝都の中心。黄金色に
それを鋭い目つき眺めるのは西村真琴。彼は禁厭師たちが使役する式神から、情報を受け取りながら帝都の街並みを見る。
北の貯水湖、西の採掘基地、南の工業地帯。そして、海風吹きすさぶ東の空。
――“科学の研究はいつだって
「おいおいおいおい、一体いつから帝都は終末の丘になっちまったんだ?」
「ちゃんと機能するんだろうな?」
最後に太平洋上に浮かび上がる巨影を見据えて、頭を掻く真琴に問うたのは現職総理大臣【
「物理的にはかなりの強度がある。都市開発にあたって、建材や建築法にかなり手を加えさせてもらったからな。一見ごちゃごちゃとした街並みだが、大概の災害ならどうにかなる。おまけに防衛術式もあるから、帝都の中にいれば死にはしない」
「その術式が機能するか聞いているんだ」
「んなこと知らんよ、専門外だ。そこで念仏唱えてる連中に聞いてくれ」
総理大臣相手でも
「しっかし、すっげえ光景だな。本当に神話や聖書の世界に入り込んじまったみたいだ」
「
信じられないものを見て呻く原敬に「んなわけないだろ」と真琴が一蹴する。
「実際に天体を移動させてたらこんなもんじゃ済まない。太陽や月を移動させるだけでも、人類が滅亡してもおかしくない潮汐力が生まれるんだからな」
「では、この星空をどう説明する? まさか、まやかしとでもいうのではあるまいな?」
「まやかしだっていう説が一番現実的だが、それを排して考えるなら――多分、光の屈折だろうよ。空に可変機能を付けた
「そんなものをどうやって浮かべる?」
「あくまで論理の話だ。だが、そう外して無いはずだろうよ。
「専門外なのにそうやって当たりを付けてくるあたり、本当に怖いですわ、教授」
いつの間にか神楽を終えた雪乃がしっとりとかいた汗を拭きながら、苦く笑う。
「俺が怖いって? アホだろ。惑星規模の粒子の観測・制御を簡単にやってのける
「ええ、起動いたしました」
雪乃が頷いた瞬間、彼らの目は眩い黄金の光に焼かれる。
大通り、路地裏、そして無数の楼閣と摩天楼同士を連結している渡り廊下が黄金の光を放って空を衝く。立ち上る黄金の霊力が帝都全土を駆け抜けていく。
「これが
「然り」
困惑する原敬の言葉を雪乃が肯定する。
その黄金色の光の
「この結界術式にて帝都を完全に防衛してみせましょう」
大通りなどの通り道を線に見立て、都市全体を使った大規模方陣。それがこの都市の本当の姿だった。
しかし、これほど大規模な術式を目にしてなお、原敬の不安は拭い切れない。
「できるのか? あれは、人の手に余る敵だろう」
「龍脈を利用した術式です。これを破れるとしたら術そのものを瓦解させることができる永倉様か、地球滅亡域の厄災くらいのものでしょう」
「そういえば当の永倉殿は?」
「あそこだよ」
今度は真琴が指さす。その先には東京湾に浮かぶ人工島が一つ、
「
「それでこの国が救われるのなら安いものだ」
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