第4話「リアル」

 日曜日の昼間に、ハチテレビでは「ザ・リアル」というノンフィクション番組がやっている。

 現代社会の様々なリアルの姿を切り抜いて視聴者に伝えるというものだが、競馬番組を見る前にたまに見ることがある程度で、注目したことはなかった。

 しかし、なんと今回はバーレスクで働くダンサーの特集、それも1時間丸々俺のレニの特集なのである。

 まさか、あのレニが全国区になるときが来ようとは……。


 ところが、その「ザ・リアル」のタイトルがなにかおかしい。

『おかあさんはショーダンサー』とかって副タイトルがついている……。

 あれ確かレニの特集のはずなんだけど、レニのお母さんもショーダンサーなんだろうか。


 言いようのない不安に駆られながらその番組を見ることにする。


 ……。


『新作ショーに出ることのできないレニからファン達は徐々に離れていきます。しかしレニにはショーに出れない理由があったのです。……レニには育てなければいけない男の子がいたのです』

 ナレーターが淡々と事実を述べていく。

 画面には一人の小さな男の子と、その手を引くレニの姿が映し出されていた。


『レニには夫とそこにできた一人の男の子がいました。そしてその夫とは3か月前から別居中です』

 

 ――――馬鹿な!?


 信じられない、まさかレニが1児の子持ちだったなんて……そして別居中の夫がいるだなんて、そんなこと一言も一言も聞いていない!

 

 ザ・リアルでは、1児の子供を抱えながらショーダンサーとして働くレニの姿が赤裸々に描かれていた。しかし最近夫と別居したことで、子供を見る時間が増え、新作ダンスの練習をする時間が取れないといった描写がされていた。

 そして、そこには何とおれも映っていた。

 レニに厳しい言葉をぶつけたあの時のおれの姿である。声も顔も加工されていたがあれは間違いなく俺と俺の言葉である。


 あの後レニは泣いていた、俺の言葉にあまりにもショックを受けたのであろう。新作ダンスに出れない影にはそんな理由があっただなんて想像もしていなかった。知っていれば俺もあんな言葉は投げかけなかっただろうが……。


 しかし、そこはこの際問題じゃない。

 

 問題はレニに子供がいるということで、夫が現在別居中だということである。そして、放送を見る限り、出会った時のレニには同居してる夫がいたのである。

 これは裏切りだ、お客さんへの、そして何より俺に対する裏切りである。

 俺は自分の彼女を捨てて、バーレスクにそしてレニに情熱と愛と金を注ぎ込んだというのに……。

 レニは真実を隠し、そしてバーレスクはそれをテレビで暴露して、俺をどん底に叩き落そうとしたのだ。

 こんなことが許されていいのだろうか。


 すぐだ、すぐにでもバーレスクに行かなければならない、レニに会いに行く必要がある。レニに会いに行ってレニの本当の気持ちが知りたい。

 子持ちだったという事実、OK、この際これはいい。俺には新たにパパになるという覚悟がないわけではない。


 問題は別居の方である。なぜ別居したのか、時期的には別居はの話である。

 レニは、ひょっとしてあの時俺と出会ったからこそ、夫と別居することにしたのではないか。

 


―――そうだそうに違いない、ならば俺はレニに今すぐ会いに行って、レニのその思いにこたえる必要がある。なぜ気づいてあげられなかったんだろうか、それどころか逆に厳しい言葉をレニに投げかけてしまう始末だ……。

 どうしようもないやつだな俺は、テレビを通してその事実を伝えてもらわなければわからないだなんて。


 すぐにでも予約をしなければ……、くそっ、案の定予約で一杯か……。どうする、そうだVIP席だ、VIP席ならば金を払えば座れるはず。さすがにあそこが予約で埋まるということはないだろう。

 問題はない、金ならばあるのだ。


 俺はすぐにバーレスクに電話をして、VIP席の予約を取った。よかった、VIP席の空はあるようだ、今日はVIP席でシャンパンを入れて、バケツ一杯のリオンをレニにプレゼントして、そして告白をしよう。

 今までナナと結婚をしなかったのはすべてこのときのために違いない。俺はきっとレニと結婚するために生まれてきた。


 さっそく、出かける支度をしなければならない、今から向かえば9時のショーにはまだ間に合う時間だ。

 テレビの内容にショックを受けたものの、新たな展開を想像すると、俺は妙にうきうきしてしまっていた。早く早くレニに会いに行きたい。


 そう思い俺が支度をしていると、ピンポーンと部屋のインターホンの鳴る音が聞こえた、5時過ぎ、日曜のこんな時間に客とは珍しい。

 とくにアマゾンとかを頼んだ覚えもないのだが……。

 

 億劫ではあったが、玄関に向かった。さっさといかないと電車に間に合わないのに。


 扉を開けるとそこにはスーツ姿の男が3人、神妙な面持ちで突っ立っていた。

(なんだ、ものものしい……。)

 すると、こちらの顔を確認して、真ん中のオールバックの男が、一枚の紙切れをこちらに見せながら口を開いた。


「―――――――さんですね?裁判所から、横領罪で逮捕状が出ています。任意ではありませんのでご同行していただきます」

 俺の腕はその男たちにがっつりとつかまれた。



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