第27話 ラフムたちの脅威③

「撃て、撃て!!」


 移動中、音に反応して新たに現れたラフムの群(む)れ。兵士たちは手にしたマシンガンを構え、快装車に並走して走るラフムを撃ち倒していく。

 大通りを抜ける際にラフムたちは金切声をあげて群れに指示を送っているのか、ラフムたちは車の右側へと集まるとひっくり返そうとして体当たりを繰り出してくる。

 それに対抗してハンドルを切りつつ、停車してある車に当たらないように気を付けながら先へと進んでいく。


「うわぁぁ! き、来た! 来た!」 


 怯えた声をあげながらハンドルを切るファイク。


「その先を右へ曲がれ! 道を間違えるなよ?」


 車から身を取り出して弾丸を後ろに走っているラフムへ大型拳銃(プァイファーチェリスカ)を構え、向けて撃ち込んでいく。

 何発も何発も打ち込み、吹き飛ばして倒れていくが数が多すぎて減った気がしない。それでもアーデルベルトは懸命に撃ち続ける。


「うわぁぁ!」

「ちぃ! 一人やられた!!」

 

 そのうちに窓から身を乗り出して銃を撃っていた兵士がラフムに捕まり、上半身を食われ、引き出されて転げ落ちる。

 そして集まったラフムたちに手を足を食われ、服を肉を噛みちぎられ、引きちぎられていく。

 離れていく兵士の悲鳴。しかし、止まるわけにはいかないだろう。

 あの数をいっぺんに相手には出来かねる。


「アロイーー!」


 アデルとは別の車に乗っていた兵士が「クソ、クソ」と叫び、悲しみと怒りに声をあげる。


「うぁぁぁぁぁぁ」


 半狂乱になってマシンガンを撃ちまくる9班の兵士。


「落ち着け、やみくもに撃っていたって意味がないぞ!」


班のリーダーであるホルスが止めに入り、兵は「でも、でも」と悔しそうに声を漏らす。


「気持ちはわかる。が今作戦が優先だ。集中してくれ」

「……はい。すみません」

「絶対死ぬ、これ死んじゃうってぇー! アーデルベルトさんなんとかしてくださいぃー!!」


  通信先の会話を聞いて安心するアデルの横でファイクは涙目で叫んでいる。


「無理を言うな。こっちだって手一杯だ」

 

 ズガンズガンとチェリスカを正確に撃ちながら、アデルは叫ぶ。


「とにかくお前は車で走り続けろ。次を左だぞ!」

「クソォ! 頑張りますよぉグスッ……」

 

 それからしばらく大通りをグルグルと回転するようにして走らせながら、弾丸を撃ち込んでいく。

 

「いくら撃っても減った気がしない」

「クソ、クソ!」

「まだ終わらないのか!」

 

 残弾を確認し、アデルは通信機に手をあてる。


「救助班はまだ終わらないのか? こちらももう限界だぞ」

「任務完了までおよそ2分。悪いがもう少し持ちこたえてくれ」


 そういって通信が一方的に切られる。

 そんな通信機をしていると9班の乗っている快装車両側から悲鳴が聞こえてくる。


「クソ、後部扉が破壊された!」

「乗り込まれるぞ!」

「今すぐに振りほどけ!」


 9班の車両に3体のラフムが取り付いている、アデルも急ぎ、助けようと思うが、チェリスカでは威力が強すぎる。

 素早くファイクに配給されたマシンガンを手に取ると連射(フルオート)から単射(セミオート)に切り替え、撃とうとするがラフムが飛び付き邪魔をする。

 腕に噛みつくラフム。アデルは一瞬だけ自分の腕が食われた時の事を思い出し、すぐさまラフムを殴ってふりほどくと再びマシンガンを構えて車両に取り付いているラフムを撃ち落とす。


「すまない。助かった」

「そちらに問題はあるか?」


 耳に付けた通信機(インカム)を繋ぎアデルが問いかけるとどうやら向こうも弾が残り少ないようだ。

 絶望的な状況。しかしアデルは希望を見いだしていた。

 あの時は妻を――アルマを助けられなかった。今は手を繋いでいたあのときの手は無くなったが、こいつを、この機械の腕と銃で奴をアルマを殺したあいつを殺すことができるかもしれない。


 そう熱意に燃えている刹那、横から飛んできた巨大な何か。それは蛇のようにうねりながら高速で車両にぶつかってくるとアデルたちの乗っていた車両が宙を舞い、ビルへと突き刺さった。


――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 甲高く、長い金切声。鼓膜が破れそうなほどにでかいその声が合図になるかのようにアデルたちを追っていたラフムたちが一斉に何処かへと行ってしまった。


「……助かった?」


 9班の一人が静かになった事に呟く。そして車両からおりるとそこは妙に暗かった。

 まだ日が高く上っているはずの時間。それなのにまるでビルの間のように暗い。


 「おい……あれ……」

 

 兵士の言葉を合図に見上げたその先。

 

 

 

 

 そこには絶望しかなかった………。

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