いつだって、私を助けてくれる王子様(笑)
基山が来てくれた。
無理矢理連れて行かれそうだった私は、掴まれている腕を大きく動かして、振りほどく。
「あ、てめえ!」
ナンパ男が再び手を伸ばすもそれをすり抜けて、やってきた基山の元へと向かう。
「水城さん、いったいなんの騒ぎ?」
「それが、話せば長くなるんだけど」
「だったら話さなくていいや。そこの人達!」
基山は私を守るように背中に隠すと、ナンパ男達の前に出嗜んで。
「話があるなら僕が聞きます。彼女には近づかないでください!」
凛とした態度で言い放つ基山。興奮していたナンパ男達だったけど、基山の剣幕に圧倒されたように足を止めた。
そして私は不覚にも……本っっっ当に不覚にも、そんな基山を一瞬格好良いって思ってしまったのである。基山に見とれてしまうだなんて、どうやらお祭りの空気のせいで、ちょっとおかしくなっているのかも。
基山の登場で一瞬男たちは驚いたようだったけど、すぐに気を取り直したように凄みをきかせてくる。
「なんだお前は?関係無い奴はすっこんでろ!」
一人が基山の胸ぐらを掴んで怒鳴る。おそらく基山になら勝てると思っているのだろう。三対一だし、基山はパッと見全然強そうじゃないしね。けど……
「放してください」
静かにそう言って、掴んでいる男の手に自分の手を伸ばす。そして……
「えっ?」
男が間の抜けた声を漏らしたかと思うと、一瞬にして組伏された。
早すぎて、どんな動きをしたかはよくわからなかった。気がつけば基山は男の背後に回り込んでいて、男の手を無理矢理後ろに引っ張って締め上げていた。
「痛ッ! なんなんだお前はよ!?」
驚くのも無理はないだろう。離れようともがいてはいるけど、全然引き剥がせないのだから。一体きゃしゃな体のどこに、そんな力があるのか?
そういえば基山、格闘技の経験があるって言ってたっけ。普段はほんわかした雰囲気だから忘れがちだけど、意外と強いのだ。しかも、実は吸血鬼。身体能力が人間のそれを上回っているし、血を吸う前だろうと、こんな男をのすくらいわけ無いだろう。
そして基山は、彼らにそっと告げる。
「もうやめにしませんか?僕らはただ、花火を見に来ただけですから。そっちだってこれ以上騒ぎを大きくしても、良いことなんて無いでしょう?」
「わ、わかった。もう乱暴はしない。放してくれ」
言われた通り、基山はそっと手を放す。解放された男は慌てたように仲間達の元へと戻っていく。
「……行くぞ」
「あ、ああ」
どうやら向こうも、本当にこれ以上やりあう気は無かったようで、すごすごと退散していく。
助かった。そう思っていると……
「なにこれ? 絡まれてるところを助けるだなんて、どこのマンガの話?」
「こんなレアな場面、初めて見た!」
様子を見守っていたギャラリー達が騒ぎだした。こいつら、今までは黙って見ているだけだったのに、ナンパ男達がいなくなったとたん好き勝手言ってくれる。この状況、かなり恥ずかしい。
そして、そんな私の心中を知ってか知らずか、奴らを追い払ってくれた基山はこっちへ寄ってくる。
「水城さん、大丈夫だった?」
「うん、なんとか……」
そう言って歩み寄ろうとして……よろけた。
「わっ」
何故だか足に力が入らなかった。体制を崩した私は、そのまま前へと倒れ込む。だけど……
「危ない!」
倒れる前に、基山が抱き止めてくれる。おかげで顔面から地面へダイブという事態は避けられたものの、その代わり基山の胸板に顔を埋める形となってしまった。
「あ、ごめん」
慌てて離れようとするも、依然足に力が入らない。体制を整えることもできずに、基山に寄りかかったまま動けない。そして、私を受け止めている基山はというと。
「み、水城さん。は、離れて……」
顔を赤く染めながら、私から視線をそらしている。
あ、そうか。最近普通に話していたか忘れがちだったk度、基山は女子アレルギーだったっけ。きっとこんな風に密着されて、困っているに違いない。
「ごめん、すぐに退くから。それと……とりあえず場所移動しない?」
「そ、そうだね」
図らずも抱き合うような体勢になってしまった私たちを見て、ギャラリーから「少女マンガみたい」と声が上がる。
これ以上ここに留まるのは恥ずかしすぎる。
私達は人目を避けながら、すごすごとその場から離れるのだった。
◆◇◆◇◆◇
騒ぎのあった場所から離れ、やって来たのは公園の隅。人目を避けようと思って歩いていたら、いつの間にか中心部からすっかり離れてしまった。
けど、おかげで少しゆっくりできそう。私も基山も、そこにあったフェンスに背中を預けて、ようやく落ち着くことができた。
「やっとゆっくりできるわ。基山、ありがとね。助けてくれて」
「大したことはしてないよ。それより水城さん、怪我したとか、変な所を触られたりとかしてない?」
「大丈夫よ。基山が来てくれたおかげで、怪我は無かったわ」
「けど、さっきは歩くのもやっとって感じだったよね?」
「それは……」
痛いところをつかれ、何て答えたらいいか迷ったけど、体をはって助けてくれたんだ。包み隠さず、ちゃんと答えることにした。
「ちょっとね。ゴールデンウィークの事件の事を思い出しちゃって」
「あっ……」
察したらしい基山が、ショックな表情を浮かべる。大方、嫌なことを聞いてしまったと思っているのだろう。だけど私は、そんな基山を見てクスリと笑う。
「今はもう平気よ。けどだめね、もう二ヶ月も前のことなのに、思い出すと足がすくむなんて」
「違う、まだ二ヶ月だよ。あんなことがあったんだから、あとを引くのも無理はないよ」
「そうなのかな?でも、基山のおかげで今回も助かったわ。また何かあったら、その時も基山に頼ろうかな」
そういったものの、これは冗談だ。そもそも、そうそうこんな騒ぎは起こったりしないだろう。だけど、これを聞いた基山は真剣な目で、じっと私を見つめる。
「水城さん……」
「なに?」
「水城さんさえよければ、僕は……」
基山が何か言いかけた。けどその瞬間、ドーンという大きな音が、その声をかき消した。
「あ、花火もう始まっちゃった」
見れば空には、赤や緑の、色とりどりの花火が上がっている。結局、始まりを皆と一緒に見ることはできなかったけど、見れたことに変りは無いから良しとしよう。それに、基山とは見れたんだから。
一人で見るのは寂しいけれど、隣に基山がいてくれるなら楽しい。そう思いながら基山の方を見ると。
「……今回もまたダメだったか」
何だかがっかりした様子で、何かを呟いていた。けど、なんて言ったかは、花火の音でかき消されて。よくは聞こえなかった。
よく分からないけど、顔をあげなさい。せっかくの花火、見なかったらもったいないよ。
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