ぼくは。素の嘘つきが嫌い

浅白深也

プロローグ

 誰の姿も見当たらない、まだ辺りを暗闇が支配する未明の学校。


 ぼくはどこか埃臭い階段を一段ずつ上がる。ゆっくりと。踏みしめるようにして。


 階段を上がった先にあるスチール製の両開き扉。


 鍵はかかっていなかった。まるで誰かがその未来に導いているように。その未来が訪れるのを望んでいるように。


 扉を開け放つと、ぼくの横を冷たい風が勢いよく通り過ぎていく。扉はバタンッと怒号のような音を出して閉まった。


 もう戻れない。一歩一歩と死の淵へ近づいていく。


 あらかじめ用意しておいた書き置きが風で飛ばされないように、靴を脱ぎ、その下に置いた。


 フェンスを乗り越え、つま先がはみ出すほど幅の短い足場に降り立つ。


 靴下を通り抜けて足裏に感じるコンクリートの冷たさ。体に吹きつける風。すべての生き物が死に絶えたような静寂。今まさに向かおうとしている眼下は、暗くてよく見えなかった。


 前を向いて目をつぶる。すると走馬灯のように苦しみに満ちた記憶が脳裏に呼び覚まされた。


 日々絶えない周りからの罵詈雑言。暴力。迫害。孤独。裏切り。なにがきっかけだったなんてもう思い出せない。


 ほんとうに最悪な学校生活だった――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る