Ⅹ このまま野宿でもする気かよ!

「おい、朴! 起きろよ、こら!」


誠は念仁ヨミンの肩を持ち、左右に揺さぶった。しかし、念仁はぐったりとしていて動かない。顔はまるで茹蛸ゆでだこのようだ。


「おい、朴! 宿はどこなんだよ! このまま野宿でもする気かよ!」


しかし、やはり念仁は正気を取り戻さない。


誠は大きく溜め息を吐いた。


そろそろ居酒屋から出ようかという段になって、念仁は酔い潰れた。呑む量がやたらと多いことは途中から気にかかっていた。誠はあまり酒に強くはない。昂奮していても、量だけは控えている。それゆえ正気も失わなかった。


念仁の襟首を掴み、引き摺って行った。会計を済ませ、店から出る。


夜はいよいよ静かになろうとしていた。冬は遠のいたといえども、夜はまだ冷える。路上に放置しておくのも気が退けた。


最初は、愚かな朝鮮人をからかってやろうとしただけだった。誠は、朝鮮と朝鮮人とを心の底から嫌悪していた。奴らは心の腐った下品な民族なのだ――姑息であり、日本人に成り済ましてマスコミと野党を陰から操っている――そう本気で信じていた。


ところが蓋を開けてみれば、彼は熱心なツユリストであり、かつて誠も絶賛したことのあるコスプレイヤーであった。あのブログの記事を見たとき、誠は、朝鮮人は嫌いだが、こいつとだけは仲良くなれそうだ、とコメントした。自分は朝鮮人とは違い、認めるべきところは認められる人間なのだ、と自己満足に浸っていた。


今、誠が襟首を掴んでいるのは、そんな嫌悪すべき朝鮮人だ。


どうするべきか途方に暮れた。こんな反日民族の一員は、野垂れ死にしようが構いはしない――普段の誠なら、それくらいのことは言っているはずだ。


――むしろ、一人でも多く減るべきなんだ。


誠は、様々な事例を思い出し、朝鮮人への敵愾心を奮い立たせようとした。


しかし同時に葛藤もあった。念仁と過ごした時間は一体何だったのであろうか。ここまで熱い思いを抱えた同志は、今まで日本にもいなかった。そして、誠は念仁のコスプレも好きだ。その人物に出会えて――共に過ごした数時間は、あっという間に過ぎていった。ここまで充実した時間を過ごせたのは、『まほつゆ』を鑑賞していたときくらいだ。


「ええい、畜生!」


誠は、襟首を掴んだまま念仁を引き摺っていった。


そして、自分が住んでいるマンションへ向かった。

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