第44話 カリアの切り札
「何を言っている。私はフィオーレなど直接知らない」
「知らないの? 今、あなたが使っているのは妹の、フィオーレの体ですよ」
「そんな事があるはずがない。似ていると散々言われているだけだ。私も迷惑していた」
「それなら肉体の本質、遺伝情報はフィオーレとは別物。でもあなたは何度も、その北の塔へと出入りしていた。あの塔に施された結界、フィオーレの鍵を開いてね」
「容姿が……」
「それは関係なかったわ。だって、イチゴ姫の姿をした私が出入りできたのだから」
おお、女性同士の舌戦。
今の所、シャリアさんが有利だと思う。
「あなた、そろそろ何者なのか正体を明かしたらどうなの?」
「正体を明かすも何も、私は森の巫女ソアラの従者、カリア・スナフだ」
「そうらしいわね。南方の島国ゴトラ出身。浅黒い肌と黒い髪。そして小柄な女性だったと」
「な、何を言っている」
「全部聞きました。あの塔で眠っているエドラ・ルクレルク様から。浅黒い肌と黒い髪の小柄な女が、何故、白い肌で銀色の髪のスタイルの良い女に化けているの?」
「何の事だ!」
ややヒステリックになったカリア・スナフが、唾を飛ばしながら反論している。しかし、シャリアさんの言葉を覆すことはできない。
「そうだと言うのなら証拠を出せ。私は白い肌と銀色の髪をもって生れて来たのだ」
「南方の島国、ゴトラ出身で白い肌だったと……面白いわね。ところであなたは、寒い所は苦手なのかしら?」
「氷の中が好きな者などいないだろう」
「昨夜、一カ所だけ氷を薄くした進入路を作っておいたのですが……入って来られなくて残念でした」
「罠が張っている場所にわざわざ入っていく馬鹿はいない」
「そう? 私は寒さが苦手だからっ入って来なかったと思ってたのに」
「違うと言っているだろう」
あ、思い出した。昨夜、シャリアさんは炎の精霊ギラーラ様に侵入者があれば焼き払えと言ってたのは、故意に侵入路を作っていたからなんだ。
「まあいいわ。今、めちゃ暑いからちょっと涼しくしちゃいましょう」
「涼しくするだと? まさか?」
「そのまさかよ。スフィーダ様、お願いします」
……わかった……
控えめな声。子供のような、まだ幼さを感じる声が聞こえた。すると、空中に小柄な人形が、透明な氷でできた人形が現出した。身長は30センチほど。その人形が俺の顔を見てニヤリと笑った気がした。
瞬間的だった。
地面は白く凍り付いた。周囲には細かい氷の結晶がキラキラと輝きながら舞い始め、俺のまつ毛も白く凍り付いた。恐らく50メートル四方の狭い範囲が極端な低温にさらされていた。
「あの女、カリア・スナフを狙って」
……う……む……
カリア・スナフの履いていたブーツが凍り付き地面の白い氷と繋がった。そして彼女の衣類も、薄手の白いドレスだったがそれも凍り付いていく。
「馬鹿な。服が凍っただと? 脚も、脚も凍っている。この日差しの中で信じられん」
「さあ、どうするの? このままじゃ全身が凍り付いちゃうわよ」
「くぅ。我がしもべ達、今すぐ目覚めよ。そこな魔女、シャリア・メセラを殺せ。グラザ・トス・ラ」
これはヤバイかもしれない。カリア・スナフが何かの呪文を唱えたのだが、途端にラウルが苦しみだした。何が起こったのかわかっていない聖騎士団のクロードは腰の剣を抜いて構えるのだが、足元が凍り付いているためか、何故かへっぴり腰になっているのは面白い。
そして銃士隊だ。十数名いた銃士隊は何故か
「待て。お前たち。勝手に武装解除するな。待機だ。命令に従え!」
十五名ほどいた銃士隊は、隊長のバジル・ルブランと二名だけがまともだった。他の十二名は銃を捨てフラフラしながら俺たちの方へ歩いている。銃士隊の後ろからも、軽装歩兵が十数名ほど槍を捨ててフラフラしながらこちらに向かって来ていた。
銃士隊と軽装歩兵、合わせて二十五名の兵士が俺たちの周りを取り囲んだ。そして、俺たちの周囲の白く凍った地面を踏んだ瞬間に連中の脚は凍り付いた。その様にイラついたカリアが叫ぶ。
「この役立たずが。さっさと羽化しろ!」
羽化……羽化だと?
どういう意味なんだ?
もしかして、昆虫の変態の事なのか?
俺たちを囲んだゾンビみたいな連中は、その場で固まって動かなくなった。そして背中から何かが出て来た。
それは子供……三歳児くらいの大きさだったのだが、スズメバチのような頭を持つ昆虫人間だった。そいつらは背中から四枚の透明な羽根を広げ、羽ばたき、そして飛んだ。
俺たちの周囲を二十五匹のスズメバチのような昆虫人間が、ブンブンと飛び回っている。そいつらは人間と同じ体形をしており、そこには昆虫の特徴はない。スズメバチのような頭と顔、背中の羽根は昆虫そのものだ。そして、本来なら尻の先についているであろう毒針は、右腕から突き出ていた。
これって、戦闘用に改良された昆虫人間じゃね?
空恐ろしい見た目。あの黄色と黒の縞模様が非常に毒々しい。そして
右腕から突き出ている長くて禍々しい毒針。
こりゃ死ぬな。
情けないのだが、それが俺の正直な気持ちだった。
メチャピンチ
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