第8話 仄暗き穴の底から這い出して

 もう一度、彼の遺体を探ってみる。


 体に着けている太いベルトに付いている物、これではないかと思う。

「ごめんなさい、コレもらいます」

 一言言ってベルトを外しにかかる、2mほどの彼の体は乾き切っていたので、持ち上げるのは苦労しなかった。


 太めのベルトで出来たベストの様なそれを、大きさを調整して着込む。

 背中と脇腹に金属製らしいパーツが付いている、バックルにある少し大きめのは制御装置だと思う。

「うーん、なんか変身ヒーローみたいだな」

 最近のは、ベルトのギミックでかいし。


 カバーが付いていたのでそれを開けるとスイッチが一つあった、コレを押すんだよな、たぶん。

 スイッチを押すと、低い起動音がする。

 ん? それだけ? 

 あ、脇にレバーの様なものが付いている、カバーを閉めてレバーを上げてみる。


「おぅおおお?」

 体が軽くなった、あれ? 浮くんじゃないのか? 

 そんな事を思いながら少し跳び上がってみる。


「うああぁあああ」

 丁度、遊ばれている風船のように体が飛んでいく、壁に当たり天井に当たり、そのたびに、力を入れるものだから勢いがついていく。

 あ、コレやばいヤツだ、止めないと危ない、慌ててスイッチを切って尻もちをついた。


 尻は痛いが、俺はニヤリと笑う、どうやらビンゴだ。

 これは、たぶん『重力制御装置』だ、いや、『体重制御装置』か? 空でも飛べるのかと思ったけど、体に掛かる分を制御するらしい。

 レバーを上げ制御レベルを最大にしたもんだから、月面を歩くよりひどい感じになったっぽい。

 スイッチを切ると、体に重みが戻ってくる、重い……くそ。


 他にも何か使えないかと思ったのだけど、腕輪の様なものは、正直どう使うのかわからない、あの映画では自爆装置とかもついていたし、もらって行くのはやめておく。


 明かりが少し暗くなってきた、外も日が落ちてきたんだろう。

 供物を落としてある部屋に戻り、最近落ちてきた食べられそうな物を食べる。

 水はないけど、何とかなるだろうか。

 使えそうな布も拾って、体に巻き付けたり、マントのように羽織ったりしておく。


 食べるものには困らないかもしれないけど、穴の底にいつまでも居るつもりはない。

 すっかり暗くなった部屋で、横になり寝ることにした。



 穴の中で、3日ほど様子を見た。

 供物を落とすのは、日に一度、昼くらいのようだ。


 その日、目が覚めた時にはかなり明るくなっていた、もう日が昇って時間がたっているんだろう。

「よし!」

 俺は気合を入れる、チャンスは供物を落とした後だ、巫女共も食事に入るだろう。

 見つかって面倒なことになるのは避けたい、なんせ抵抗する手段がないし。

 食べられそうなものを見つけ出して、布で包んで背中に背負ってじっと待った。


 ほどなくして、穴から明かりが差し込み上から布といっしょに供物が落ちてきた。

 完全に閉じられたのを確認し、しばらく待ってから、制御装置を起動させ穴の真下まで移動する。

 レバーを目いっぱい上げ、足に力を込めて飛び上がる。

 あ、やばい、ちょっとずれた、手や足を使って壁を叩きさらに上がっていく。


 ゴッ!

「~っ!」

 穴を塞いでいる板に頭をぶつけてしまった、痛い!痛いけど音を立ててしまったのがもっと痛い。

 冷汗が流れる、じっとして聞き耳を立てて様子をうかがう。


 しばらく様子をうかがっていたが、大丈夫そうなので板と床の間に手をねじ込んで、隙間を作り覗いてみる、よし、誰も居なさそうだ。

 這うように体を外に出していく。


 よし! 生きて外に出てやったぞ! ざまを見ろ! 俺は勢いよく起き上がった。


 それが悪かった、俺は勢いよく天井まで飛んでいった。

 何とか悲鳴を抑え込んで、天井にしがみつく、あまりのうれしさで制御装置の出力調整するの忘れたせいだ。

 くそ、またやらかしてしまった、体が離れないように、天井をヤモリのように張り付いて移動する。

 どこかに隠れるところか、外に出る窓はないか? 

 そんなことを思っていると、脇の通路から巫女が一人出てきた、やばい、幸いまだ気がつかれていない。


 一か八か、俺は決心をし、天井を思いっきり蹴り飛ばした。

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